「ハイサイおじさん」の喜納昌吉、なぜ沖縄から嫌われる? YMOにも影響を与えた異能の音楽家の半生
「政党の体を成していなかった」
2014年の沖縄県知事選に翁長がオール沖縄を率いて立候補を表明すると、昌吉も翁長に対抗するように立候補した。当時の民主党は辺野古移設を容認する立場だったにもかかわらず、オール沖縄の先頭に立っていた翁長に敵対しないほうが得策であると判断して、昌吉に立候補を取りやめるよう働きかけた。利権・既得権の固守や党利党略を嫌う昌吉は、この指示を一蹴し、離党した上で立候補に踏み切った。昌吉が落選すると、党本部はすでに党籍のない昌吉を「除名」したが、民主党のこうしたでたらめぶりに昌吉はあきれかえり、「政党の体を成していなかった」と述懐している。
なお、この9月に再選された玉城デニー知事も民主党出身で、昌吉に支えられた時期もあったが、現在は、オール沖縄の顔になっている。
また喜納昌吉は、オショー(バグワン・シュリ・ラジニーシ)やダライ・ラマ14世との交流など、スピリチュアルな世界でも存在感を示している。最近では、フランス生まれの新宗教、ラエリアン・ムーブメントの主宰者ラエルが、昌吉を慕って沖縄に移住している。
「昌吉さんには、宗教家まで引きつけるシャーマン的な魅力があります。琉球王朝時代の神事にも通じている。ご本人はけっこう現実主義的かつ快楽主義的な方ですが、沖縄には昌吉さんを神人(かみんちゅ)として畏れる人も多い。それも敬遠される理由でしょうね」(前出のマスコミ関係者)
北朝鮮国境付近で朝鮮民謡を熱唱
喜納昌吉の活動は、近年もなお独自路線を貫いている。
2019年9月4日、昌吉は、通販でも知られる夢レコードから「富士山(ふじやま) Japan」という演歌をリリースした。作詞家の東海林良が小林旭のために書いた詞に昌吉が曲を付けたが、最終的に昌吉が歌うことになったという。有線放送で一部ヒットしたが、本土のマスコミも沖縄のマスコミもほとんど取り上げなかった。
前出の音楽プロデューサーは、「曲としてはおもしろいのですが、喜納昌吉が演歌じゃまずいでしょ。オール沖縄の応援歌だったらマスコミは喜んで取り上げたでしょうにね」という。
同月18日には、韓国MBNテレビの招きで、喜納昌吉は北朝鮮と境界を接する非武装地帯(DMZ)に行き、北朝鮮に聞こえるよう朝鮮民謡「アリラン」を熱唱した。核武装を進める北朝鮮に平和のメッセージを伝えるためだったが、韓国政府、米国防総省、米軍、国連からそれぞれ許可を得た上に、北朝鮮当局の許可が必須となる難しいプロジェクトだった。
すべての許可が出そろったところで昌吉は歌ったが、沖縄を含む日本のマスコミはまったく報道しなかった。事の是非よりも、DMZで日本の歌手が歌うこと自体が異例だったが、日本のマスコミは、昌吉にも、韓国にも、北朝鮮にも、きわめて冷淡な態度を示したことになる。
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