妻の不倫を知り、36歳夫は“浅はかな方法”で復讐 「卑怯ね」と言い放たれたその後の夫婦関係は
夫婦ってこんなものでしょうか
「卑怯ね、と。妻はそう一言だけつぶやくように言って僕を冷たい目で見ました。彼女の美貌は衰えていないから、虫でも見るかのような目で見られると体がすくむ。怖いけどきれいだったというか……」
妻を失いたくないと思った、と奏汰さんは言う。ひどいことをされて、ひどいことを仕返しして、それでもまだ別れたくないとは。
「別れたくはないけど、きみを許せないんだ。僕はどうしたらいいんだろう。そう言いました。先に白旗を揚げたようなものです。すると妻は、『私にもわからない』と。こういうやりとりの間、僕は今にも泣きそうな状態なんですが、妻は絶対に泣かないんです。強い女だなとつくづく思います。強いというより、愛情を信じていないというか、どこか心がこわばっているというか。彼女の不倫相手、つまり亡くなった恋人は、彼女を包み込んで愛したのかもしれませんね。二回り以上年上だったから、彼女は父親的なものも感じていたのかなあ。僕に対しては、彼女はまったく素直じゃないし、いつもどこか客観的に見ていて本音を出さないんです」
結局、そのときも彼女は本音を言わないままだった。どうしたら心を見せてくれるんだ、と奏汰さんは妻にすがった。妻は彼の手をやんわりとはねのけた。復讐などという浅はかな行為に出た自己嫌悪だけが募っていった。
結婚して5年、娘はもうじき4歳になる。はたから見たら、ごく普通の家族だろう。だが、夫と妻が心を割って話すことはない。
「まったく言葉を交わさないわけではないんです。娘と3人で食卓を囲んでいるときは、妻も『パパ、おしょうゆとって』とか言っていますよ。おそらく子どもが不自然だと感じないようにしているんでしょう。ふたりきりのときも、言葉のやりとりはなくはない。でも決して『会話』ではないと僕は感じています。妻は娘と一緒に寝ていることが多いのですが、娘が早く寝ついたときは、夫婦の寝室にやってくることもあります。ただ、シングルベッドを離して置いているので、妻は壁側に顔を向けて僕のほうを見ようとはしませんが」
コロナ禍で奏汰さんは出社していない時期があった。紗依里さんはずっと出社していたので、娘とふたりで過ごした時間は長い。娘が自分の子かどうかはわからないが、成長を見守ってきた娘とは離れられないと確信している。
「たとえ離婚しても、妻は行くところがない。ひとりで娘を育てていくのはむずかしいでしょう。僕も妻を追い出そうとは思ってない。できれば本音をぶつけあいたいけど、紗依里が応じないのもわかっている。冷たいとまではいかないけど、夫婦関係はかなり低い温度のまま固まってしまったような気がします」
奏汰さんが女性を家に入れてベッドで横たわっているのを見たあとも、妻は責めるような言葉は吐かなかった。説明も求めなかった。奏汰さんとしたら、怒りにまかせて妻が本音を叫んでくれればよかっただけなのに、妻は同じ土俵に立ってはくれなかったのだ。
「日常生活は滞りなく進んでいます。娘の保育園の行事があれば、なるべくふたりで行くようにしているし。夫婦ってこんなものだと思ったほうがいいんでしょうか。それとも他の家庭は、もっと心をさらけ出して語り合っているものなんでしょうか」
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