回転寿司で断トツ人気の「サーモン」は、かつて築地のプロから門前払いだった 知られざる「ノルウェーサーモン誕生秘話」
「味、見た目、匂い、それに食べ方も全部ダメ。日本では無理」――。かつて築地市場(東京・中央区)のプロたちから、こんな風に罵られた魚が今や「脂が乗っていておいしい」「食べやすくハズレがない」(大手水産会社のアンケート)と絶賛され、回転寿司のネタで11年連続1番人気となった。いったいどんな魚か、お分かりだろうか。
その魚は、主に北欧・ノルウェーで養殖されている、お馴染みの「サーモン」。今、サーモンが人気と言っても「当たり前では」と思う人が多いはず。何しろ世界一のマグロ消費国である日本で、その座を揺るがすほど消費され、回転寿司だけでなく、スーパーの魚売り場でも必ず売っている。北海道から沖縄まで、全国の料理店の海鮮丼にもトッピングされ、人気となっているのだから。【川本大吾/時事通信社水産部長】
【写真をみる】「サーモン寿司を作ったのは日本人じゃない?」 写真にうつるハンサムなナイスミドル「オルセン氏」が、大人気ネタを作った張本人だ
日本で伸び続ける消費、昨年は過去最高
ノルウェーの通商産業水産省所管の「ノルウェー水産物審議会」(NSC)によると、2021年の日本へのサーモン輸出量は、原魚に換算して約5万トン(輸出時に頭や内臓を除去するため)。10年前に比べて5割増加し、過去最高となった。コロナ禍、ロシア・ウクライナ情勢の混乱で一時は物流が途絶えたものの、最近の円安も「どこ吹く風」。サーモン消費は右肩上がりを継続中だ。
サーモンが普及したのは、ここ20~30年のこと。筆者も子供のころ、たまにお目に掛かれる寿司のネタにサーモンはなかった。学生のころには見た記憶はなく、社会人になってから、その存在を知ったように思う。
江戸前を起源とする「握り寿司」に海外産の、それも新顔の養殖魚が仲間入りするのは簡単なことではない。国産・天然・近海魚で、当然、冷凍なんかされていない「上物」の魚が求められるはずだが、今では寿司桶の中央にドンと並べられ、おいしく食べられている。
ただ、これだけ人気になるまでには、高い壁があった。何しろ30年ほど前、日本でサーモンを寿司ネタとして売り込もうとした在日ノルウェー大使館勤務の水産参事官、ビョーン・エイリク・オルセン氏(以下、オルセン氏)は、築地のプロたちから「全部ダメ」と、門前払いされたところから始まったのだ。
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