香川照之、ENEOS会長はどこでミスを犯したのか 危機管理のプロは「謝罪」の問題点を指摘

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企業ごとに「格差」が明確

 ただ、KADOKAWAの角川歴彦(つぐひこ)会長のように、逮捕される前に「そんなに心が卑しく今まで50年も経営したことはないんですよ。一緒にしないで!」と気色ばんでマスコミに反論した醜悪な例もあります。

 また、日野自動車も、排ガスや燃費のデータ不正が次から次へと発覚し、生産停止に追い込まれましたから、企業でも良い対応と悪い対応の「格差」が生じている状態といえましょう。

 財界は“危機管理の優等生”に向かう過渡期なのではないでしょうか。

スキャンダル後の対応で明暗が

Q3.「危機管理の格差」は何から生まれるのか。

 危機管理の行く手には二つの川が横たわっています。マスコミとインターネットという急流です。これをうまく渡れるか否かで天国と地獄の差が生まれてしまうのです。

 2005年なので少し古い話ですが、耐震強度偽装事件が発覚しました。姉歯秀次・元1級建築士が構造計算書を偽造していたことがわかり、数多くのマンションやホテルが窮地に陥ってしまったのです。

 そのとき注目されたのは、ヒューザーとシノケンというマンションデベロッパーでした。ヒューザーの社長が言い訳や反論を繰り返す一方、シノケンの社長は購入者に寄り添う誠実な対応をしました。結果、ヒューザーは経営破綻しましたが、シノケンはコロナ禍にあっても利益剰余金が右肩上がりと経営状態は盤石です。

 両者の違いは、場当たり的な危機対応をしたのか、理にかなった対応をしたのか、の一言に尽きます。いきなり川に飛び込んだのがヒューザーで、流れに逆らわずに目的地を定めて泳ぎ切ったのがシノケンでした。

闘争本能と逃走本能

Q4.“理にかなった対応”とはどのようなものか。

 危機管理には定理や方程式というものがあります。たとえば、「危機に遭遇すると、人は二つのトウソウ本能に支配される」という定理。闘うトウソウ本能と、逃げるトウソウ本能の二つですが、ヒューザーの社長は“闘争本能”に支配されてしまったのです。教育界では日大の田中英壽理事長が“逃走本能”に支配されて、謝罪会見を開かずに逃げ回ってしまいました。

 アマチュアのレスリングやボクシングの重鎮たちが、逃げたり闘ったりを繰り返して辞任に追い込まれた事例も、この定理に合致します。

 また、私は、危機管理は常に「感知・解析・解毒・再生」という手順、方程式に沿って行うべきだと企業に提唱しています。シノケンの社長は冷静で、「解毒」に徹する発言をしていましたが、ヒューザーの社長は感情的になって毒を増やす発言を連発してしまったのです。

 これも少し古い話題ですが、講演などで頻繁に引用しているケースがあります。2014年に発覚した佐村河内守さんと新垣隆さんによる楽曲代作問題です。その時、佐村河内さんは感情的な言葉で“毒”を増やしてしまいましたが、新垣さんは謙虚な姿勢で「解毒」に徹したのです。その結果、佐村河内さんは活動不能となりましたが、新垣さんはCMにも出演するほどの人気を博しました。当初の二人は“共犯者”であり、同じ苦境にあったのですが、危機管理を適切に行えるか否かがこれほど大きくその後の命運を分けたのです。

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