これから観ても遅くはない「秋ドラマ」三選

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日本テレビ「ファーストペンギン!」(水曜午後10時)

 瀬戸内海の港町に流れ着いたシングルマザー・岩崎和佳(奈緒[27])が、お先真っ暗の漁船団「さんし船団丸」を立て直すまでの物語。その過程は和佳と既得権や古い考えにしがみつく守旧派とのバトルの連続だ。

 漁船団立て直しのために和佳が思いついたのが宅配便を使って魚を消費者に直送する「お魚ボックス」。これなら漁協や小売店の仲介手数料がなくなるので、漁船団の利益は3倍以上に膨らむ。おまけに魚の鮮度もアップする。

 しかし、漁船団社長の片岡洋(堤真一[58])は取り合わない。利益と権限を奪われる地元の汐ヶ崎漁協が許さないと考えたからだ。

 それでも和佳は農林水産省の6次化(漁業など1次産業者が販売など3次産業にも取り組むこと)事業の認定を受ける。「お魚ボックス」は可能になった。日本初の取り組みだった。

 けれど片岡の不安は的中。漁協長の杉浦久光(梅沢富美男[72])は激高する。それに臆した片岡も手を引く。だが、和佳はあきらめなかった。長いものに巻かれたくなかったのだ。この点は「エルピス」の恵那と共通する。

 杉浦は6次化の認定取り消しを図るが、和佳のほうが一枚上手だった。農水官僚の溝口静(松本若菜[38])と連携し、政治家に和佳の取り組みを国会で答弁させ、「お魚ボックス」を既成事実化させた。

 守旧派たちは和佳ら弱者には強いものの、国会などの権威には平伏する。いたって日本的である。この国の悪しき部分が描かれている点も「エルピス」と似ている。

 片岡の継子で和佳の相談相手である医師・琴平祐介(渡辺大知[32])を同性愛者という設定にしたのも脚本を書いている森下佳子さん(51)による守旧派へのカウンターに違いない。祐介がカミングアウトする意向を示すと、片岡は偏見の言葉の限りを口にする。

 和佳は「今どき、そんなふうに思う人はいないんじゃない」と言い、片岡を諌めた。さらに和佳は偏見によって祐介が深く傷つくと片岡を諭す。それを片岡も理解した。和佳のセリフは森下さんによる世間に向けての言葉だったのではないか。

 森下さんは渡辺あやさんと同世代。脚本界のトップランナーであるところも一緒。問題意識を持っているところも共通している。

 その後、別の漁船団も「ウチも宅配をやりたい」と言い出す。杉浦は考えをあらため、許そうとした。

 だが、今度は杉浦がよその漁協に脅される。どの漁協も宅配が広まっては困るのだ。さらにはフィクサーのような男・辰海一郎太(泉谷しげる[74])まで登場し、「さんし船団丸」潰しに乗り出す。やっぱり、すこぶる日本的なのである。

 和佳は守旧派勢力をぶっ潰せるか。

TBS「日曜劇場 アトムの童」(日曜午後9時)

 頭から尻尾まで分かりやすい作品。「エルピス」とは対象的だ。子供から大人まで家族揃ってテレビを観る人の比率が高い日曜夜の放送を意識したのだろう。「日曜劇場」はいつもそう。

 主人公の天才ゲーム開発者・安積那由他(山﨑賢人[28])は巨大IT企業「SAGAS」興津晃彦(オダギリジョー[46])と激戦を繰り広げている。那由他の親友・緒方公哉(栁俊太郎[31])は興津のせいで自死に追い込まれており、2人の間には因縁がある。

 那由他はやはり親友の菅生隼人(松下洸平[35])と一緒に借金まみれの老舗玩具メーカー「アトム玩具」でゲームをつくっている。しかし、那由他と隼人の才能が欲しい興津は同社を潰そうと、あの手この手で妨害する。なにやら秋ドラマは嫌がらせをする輩が目立つ。

 それでも「日曜劇場の法則」が発動され、最後は那由他が勝つに違いない。不適で自信満々な興津はどんな形で敗れるのか。泣きっ面が観たい。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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