魚を週2で食べるとリスク低減? 歩き過ぎは禁物? 認知症の予防法と超早期発見のカギとは

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脳内にあるスペアタイヤ

 そして、現時点では治療法がないアルツハイマー病に過度におびえている人には、「認知予備能」という言葉も知っていただきたいと思います。

 私たちの脳は、一部の機能が損なわれても、他の機能でそれを補えるようにできています。車で言うとスペアタイヤのようなもの、それが認知予備能です。例えば、記憶をつかさどる海馬や嗅内野にダメージを負っても、前頭葉や後頭葉でそれを補えれば、認知機能を維持できるのです。

 この認知予備能は、教育を受けていた期間が長いほど発達するといわれていますが、学生時代に限らず、社会人になってからも仕事や趣味で頭を使い続けた人であれば鍛えられるので、高齢者だからといって手遅れということはありません。とりわけ、何か新しいことにチャレンジし、学び続けることで、脳に刺激が与えられ、新たな神経回路ができるため認知予備能の働きは鍛えられます。

 しかし、ここでも気を付けなければならないのは、散歩と同様に「程度」です。脳を使わないでぼんやりしているのも良くありませんが、脳を使い過ぎてストレスを与えることもまた良くない。認知予備能を鍛えるために、高齢者が新たな勉強を始めたとします。その時、若い頃と同じように全部の情報を詰め込み、記憶しようとすると、海馬がフル稼働することになります。あまりに働き過ぎると、海馬にタウタンパクがたまり、神経原線維変化が加速するリスクになってしまうのです。

無理せずスマホで調べることも大切

 例えば、脳トレの問題を解きながら、「分からない」「間違えた」と、イライラしたり落ち込むくらいなら、脳トレをしないほうがマシです。また、間違いなく知っているはずの人や物の名前だったり、絶対に身に付いているはずの情報がなかなか思い出せずに、どうにか思い出そうとして延々と頭をひねり続ける人がいます。思い出せないのは脳機能の低下ゆえであり、ここで踏ん張らないとさらに脳が衰えてしまうと考えるようです。

 しかし、これも脳に過度なストレスをかけることにつながってしまいます。「あれ、何だっけ?」と思った時には、無理をせず、すぐにスマホなどで検索して調べるほうがいいでしょう。なぜなら、思い出そうとしてスマホで答え合わせをする――これだけでも十分に脳は働き、活性化されるからです。

 60歳を超えたら、くれぐれも「楽しいと思える範囲」で新しいことにチャレンジし、決して脳に過度で不必要な負担をかけない。これがポイントです。認知症対策のためにリカレント(学び直し)を始めたのに、逆に脳に負担をかけ、自らアルツハイマー病に近寄っていっていた……。これでは本末転倒以外の何物でもありません。

高島明彦(たかしまあきひこ)
学習院大学教授(理学部生命科学科)1954年生まれ。九州大学理学部生物学科卒業、同大大学院修了。理学博士。米国国立衛生研究所客員研究員として、また理化学研究所や国立長寿医療研究センター等でアルツハイマー病の研究を続けてきた。『淋しい人はボケる 認知症になる心理と習慣』『JIN-仁-と学ぶ認知症「超」早期発見と予防法』などの著書がある。

週刊新潮 2022年11月17日号掲載

特別読物「理学部教授が解説する新アプローチ 健康100歳のために『認知症』の『最新知見と予防法』」より

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