魚を週2で食べるとリスク低減? 歩き過ぎは禁物? 認知症の予防法と超早期発見のカギとは
嗅内野の働き
〈私たちの健康長寿を妨げる認知症。予防のためには、まずは「敵」を知ることが欠かせない。高島教授がその新常識を解説する。〉
何も見えない真っ暗闇の空間に立たされる。壁もなく、手の感触で自分の位置を確認することもできない。そんな場所で、ゆっくりと円を描くように歩き、元の位置に戻って来てくださいと命じられたら、果たして可能でしょうか。
実際に安全な場所で目をつぶってやってもらえれば分かると思いますが、可能です。おそらく、元の位置とさほど大きくずれていない地点に戻って来られているはずです。
目印も何もないのに、人間はどうしてそんなことができるのか。これこそ、嗅内野の働きによるものなのです。
嗅内野の異変を察知することが肝心
脳の側頭葉の内側にある嗅内野にはいくつかの重要な働きがあるのですが、まずそのひとつは記憶形成の「ハブ」としての役割です。嗅内野は、「見る」「聞く」、そして「嗅ぐ」といった行為によって外界から脳に入ってくる一次感覚情報を全て集約し、それを短期記憶をつかさどる海馬に伝えたり、また海馬で処理された情報を、長期記憶をつかさどる大脳皮質に渡したりと、情報の中継地点としての役割を果たしています。
このように、嗅内野は人間の記憶においてとても重要な働きをし、日夜膨大なエネルギーを消費しているため、嗅内野の神経細胞の温度は40度にも達するといわれています。
そして、嗅内野の働きとしてもうひとつ重要なのが空間認知機能です。嗅内野にあるグリッドセルという細胞が、いわばGPSの機能を果たしている。この空間認知機能があるため、人間は暗闇の中でも元の場所に戻って来ることができるのです。アルツハイマー病をはじめとする認知症の代表的な症状として「ここがどこか分からない」といったような見当識障害が挙げられますが、それは嗅内野に“異変”が生じていることと関係している可能性があるわけです。
だとするならば、嗅内野の異変をいち早く察知することが、アルツハイマー病対策の要のひとつということになります。では、どうすれば嗅内野で起きている異変に気付くことができるのか。そのためには、改めてアルツハイマー病のメカニズムを理解しておく必要があります。
[2/6ページ]