札幌五輪招致に苦言を呈したスケート・小平奈緒の本音とは アスリートの活躍を「利用されたくない」
今から50年前、アジア初となる冬季オリンピックが開かれた北の街で、“夢よ再び”と声高に叫ぶ人々がいる。2030年冬の「札幌五輪」招致のために動くのは、JOC(公益財団法人日本オリンピック委員会)と札幌市だ。来年秋ともいわれる開催都市決定に向け官民挙げて奔走するが、そうした流れに凛として距離を置く一人の女性がいた。
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「(札幌五輪の)招致に協力してほしいという要望もいただいていますが、競技や五輪というところではなく、純粋なスポーツの楽しさをもう一度、考えてみたい」
と話したのは、18年の平昌五輪で、日本女子スピードスケート初の金メダルを獲得した小平奈緒(36)である。先月27日、自身の引退会見では招致活動への率直な違和感を、以下のようにも語る。
「いろいろな問題を耳にすることがありますが、この勢いで何かを始めてしまうのではなく、いったん冷静にスポーツの在り方を考え直す必要がある」
「(冬季五輪には)4回出て確かに成長させてもらった思いがあるので、それを利用されたくないなという思いはあります」
何かと政治的発言を避ける日本のアスリートが、自らの言葉で“五輪再考”を促したのは異例だろう。
「五輪汚職への不快感」
会見からさかのぼること5日、彼女は故郷・長野県での引退試合、スピードスケート全日本距離別選手権女子500メートルで優勝し有終の美を飾った。今月1日付で母校・信州大学の特任教授に就任すると明かした門出の席で、五輪招致にはくみしない――そう宣言したに等しいが、札幌開催を推す顔役の一人はスケート界の大先輩・橋本聖子元五輪相(58)である。それだけに「小平発言」はなおのこと重みを増しているのだ。
スポーツ紙記者が言う。
「会見で小平が“いろいろな問題”と言ったのは、一連の五輪汚職のことでしょう。事件への不快感を暗ににじませた上で、アスリートの活躍を“利用されたくない”とまで公言したわけです。事件についてJOCはほっかむりを決め込み、膨れ上がった開催費用の総括もないのに、五輪を招致してもいいのか。そのような問いを突き付けています」
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