満員電車を「仕方ない」と正当化する人たち 本当は満足していないはずなのに(中川淳一郎)

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 ソウル・梨泰院のハロウィン大混雑で150人超が亡くなった2日後の月曜朝、ツイッターのトレンドには「満員電車」が入りました。恐らくこの事故と満員電車を結びつける人が多かったのでしょう。テレビの専門家は、梨泰院では1平方メートルあたり10~15人で、日本の満員電車は6人と言っていました。とはいっても、ツイッターでは満員電車で窒息しかけたという経験談を語る人や、女性専用車両で「圧」が少なかったから助かったという声も。

 それだけ満員電車が苦痛な人が多いのでしょうが、私なぞ「よくも耐えられるものだ……」と思います。新入社員の時、東京・立川からJR中央線に乗り、神田まで行き、山手線・京浜東北線で田町まで。ドアtoドアで1時間40分! 朝の大ラッシュの中央線は遅延が多く、とんでもない時間がかかってしまうのです。

 座れることはまれで、常に押し合いへし合い。ドア近くにしか陣取れなかったら駅に停まる度に外に出なくてはいけない。足を踏んだな! しょうがないだろ! でケンカは発生するし、痴漢冤罪の恐れもあるし、圧迫感はすさまじいし、口のクサいオッサンが目の前で呼吸をしている。

 ひとたび人身事故や信号故障が起きてしまえば、数十分~数時間の停車となる。車内アナウンスでは「今しばらくお待ちください」とめどは示されない。駅で停まってくれればまだよいのですが、駅と駅の間では便所に行くことすら無理。

 さすがに耐え切れず、1年で会社の近くに引っ越しました。恵比寿から山手線で5駅、一応満員電車でしたが、時間が短いことは救いに。しかし、コレも耐え切れず、9カ月で別の場所へ移り、自転車通勤になりました。フリーになってから会議は10時30分以降にしてもらい、よく行く取引先の近くに事務所を構え、満員電車とは完全にお別れできました。

 満員電車って本来はここまで苦痛なものですが、人はさまざまな理由で満員電車の利用を正当化します。「定時に着くにはコレに乗るしかない」「他の皆も受け入れている」「私の給料では郊外にしか家を買えなかった」「電車の中で勉強をすれば有益だ」など。そして、もっともワケが分からないのが「鉄道会社だって満員電車を減らすために頑張っている」というものです。

 いずれも本当は満足していないのに、あたかも満足しているかのように振る舞うことにより、自分の行動は理にかなってると信じ込む。でも、「満員電車が大好きです」なんて人がいるワケありません。

 満員電車を受け入れることって、「下っ端」というだけで意味のないことを我慢する様に似ています。会社では、新入社員がなぜか朝一番早く来て先輩の机を拭いたり、食事は電話番をしながら。それから、中1の時、卓球部に入ったのですが、ヒドかった。1学期、2年生が我々に課したのは毎日10㌔走らせるのと、腕立て伏せ、あとは「空気椅子」と呼ばれる廊下の壁に背中だけつけて屈むただの苦行。面白いダジャレを言わなければ解放してもらえない。ラケットを持つことは皆無。えぇ、バカバカしいので、夏休みに辞めました。満員電車を1年で辞めたのと同じ理由です。苦痛はイヤです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2022年11月17日号掲載

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