韓国を日米韓の軍事協力体制に引き込んだバイデン、直後に中国にすり寄った尹錫悦

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価値観は二の次

 別の保守系紙、中央日報の社説も同様でした。「北朝鮮の核挑発に対抗し安保協力で声をそろえた韓日米首脳」(11月14日、日本語版)です。見出しにはとっていませんが、本文では以下のように「中国への配慮」を訴えています。

・中国に対しては韓米日安全保障協力強化の最も大きな理由が北朝鮮の核脅威への対応にあることを説明し、中国も北朝鮮の挑発抑制に向け建設的役割をするよう促す一方、供給網再編など環境変化にもかかわらず両国ともに利益をもたらす韓中経済協力は依然として重視するだろうという立場を明確にしなければならない。

 この社説は象徴的です。韓国が米国側に立つのは自由や民主主義といった価値観を重視するからではなく、あくまで「北朝鮮の核」を解決するのが目的だ、と暗に言っているからです。

 もし、北の核問題が解決すれば、しなくとも中国が国連の場などで北朝鮮を非難するようになれば、韓国は日米韓の安保体制から抜ける可能性があることを示しています。

中国と仲たがいできぬ

 先に引用した朝鮮日報の社説にも、そうした文脈があります。以下です。

・中国を刺激するような共同メッセージに加わったのは、日増しに露骨になる北朝鮮の核ミサイルの脅威に我々が備える手段は確固とした韓米日の3国協力体制しかない、との認識のためだ。北朝鮮の暴走を阻止するどころか、幇助するような中国の態度もこの選択を強要した側面があるのだ。

 韓国の「米国回帰」は冒頭で紹介した東亜日報の社説が言うほど確固たるものではありません。「北の核」抑制用に過ぎないのです。米中首脳会談を受けて書かれた朝鮮日報の社説「バイデン・習近平会談、競争の衝突の飛び火を避けよ」(11月15日、韓国語版)に率直な述懐があります。

・過去、政府は戦略的曖昧性を守りながら、米中で危うい綱渡りをした結果、双方の不信を自ら招いた。同じ失策を繰り返さないという意志は評価するに値する。
・しかし、最大の隣人である中国と仲たがいしては生きていけなという点も厳然とした現実だ。自由民主主義の価値を守るとともに、国益外交を追求することは言うほどに容易ではないだろう。

韓国が唱える「偽FOIP」

――尹錫悦政権の「米国回帰」も形だけのものなのでしょうか?

鈴置:その通りです。11月11日に韓国ASEAN首脳会議で尹錫悦大統領が発表した「韓国版インド太平洋戦略」の位置づけがそれを如実に示します。

「韓国版インド太平洋戦略」と聞けば、安倍信三元首相が打ち出した「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)という概念に沿って、韓国も中国の海洋進出を牽制する意思を表明したかのように思えます。

 ところが「韓国版」は似て非なるものでした。尹錫悦大統領は「韓国版」を発表した際、ASEANの「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」を強く支持するとも語りました。AOIPとは大国間では中立の立場を貫くと表明した基本方針です。

 中央日報の「尹大統領、『韓国版インド太平洋戦略』を公式発表」(11月12日、日本語版)は外交関係者の談話を引用し、以下のように解説した。

・[尹錫悦大統領は]インド太平洋戦略を公開して中国の攻勢的浮上を牽制しようという米国と歩調を合わせる姿を見せながらも、AOIP支持の立場を通じて直ちに域内秩序から中国を完全に排除しようという動きには距離をおく姿を見せた。

二枚舌外交を極める尹錫悦 米中二股にいら立つバイデンの『お仕置き』のタイミング」でも指摘しましたが8月28日、韓国は中国とサプライチェーンに関する覚書を交わしました。半導体などの安定供給を中国に約束済みです。

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