ヘルソン解放でもゼレンスキー大統領を待ち受ける3つの難題

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 まるで戦争に勝利したかのような報道が相次いでいる。11月11日、ウクライナ軍は南部ヘルソン州の州都ヘルソン市を奪還した。3月にロシア軍が占領し、9月にはロシア編入を問う住民投票まで実施されたのだが、ウクライナ軍の大攻勢で退却を余儀なくされた。

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 ウクライナ国民、ヘルソン市民が歓喜している様子は、世界各国のメディアが速報で伝えた。ここでは2つの代表的な記事から見出しだけ紹介したい。いずれもYAHOO!ニュースのトピックスに転載された。

◆ゼレンスキー大統領「歴史的な日」 ウクライナ軍、ヘルソン入城(産経新聞:11月12日)

◆ウクライナ軍 南部で攻勢強める 先週一週間で179の町や村を解放(テレ朝news:11月14日)

 ヘルソン市の南側にはドニエプル(ドニプロ)川が流れている。ここを渡ればクリミア半島までは目と鼻の先だ。2014年、ロシアは強引にクリミア半島の編入を宣言したが、もちろんウクライナは認めていない。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領(44)は常に、「クリミア半島を取り戻す」との考えを示してきた。

 共同通信は13日、「大統領、さらなる領土解放へ決意 ウクライナのヘルソン奪還で」との記事を配信した。

 12日夜にヘルソン市の奪還が発表された際も、大統領は改めて“クリミア半島奪還”のメッセージを明確に示したのだ。

《ゼレンスキー氏は、各地の住民が国旗を持ってウクライナ兵を迎えたとし「ウクライナ人の団結と、全土を解放すべき理由が示された」と指摘。「南部クリミア半島でも解放の日に国旗を持った何百人もの人が通りでウクライナ兵を迎えるだろう」と述べた》

顕著な“支援疲れ”

 しかし、もしウクライナに「勝って兜の緒を締めよ」といった諺があるとしたら、ゼレンスキー大統領は心の中でこれを何度も呟いているかもしれない。

 小国のウクライナが大国のロシアを相手に大戦果を挙げた。だが、今後の展開は必ずしも楽観視できない。軍事ジャーナリストが「今後の難題」について以下のように指摘する。

「第1点は、『停戦交渉を開始しろ』という国際社会の圧力が高まる可能性です。ヘルソン市奪還でウクライナの面子は保たれたと見なし、アメリカやヨーロッパのNATO(北大西洋条約機構)加盟国がロシアとの停戦交渉に応じるようウクライナを強く説得するかもしれません。背景として、NATO加盟国を中心に“支援疲れ”が出てきていることが挙げられます」

 特にヨーロッパの場合、冬本番となるとエネルギー需要が増加してしまう。

「NATO加盟国は今のところロシア制裁で一致団結しています。とはいえ特にヨーロッパの加盟国は、ロシアが天然ガスの供給を再開してくれるなら大助かりというのも本音でしょう。NATO加盟国が停戦を求めてウクライナに圧力をかけるという可能性もあるのです」(同・軍事ジャーナリスト)

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