ツナ缶に虫混入で「1億円」賠償命令 裁判資料で明らかになった騒動発覚の真相、直営工場でもゴキブリ混入、判決文を閲覧禁止の怪
「開封前にゴキブリ混入」と説明一転
はごろもフーズの担当者は当初、「検査結果が出ておらず、まだ開封後に虫が飛び込んだ可能性も否定できない」と説明。しかしスーパー側が“まだ結果が出ていないなんておかしい”などと詰め寄ると、返答がコロリと変わったという。
以下は陳述書に記された、同社担当者とスーパー側の当時のやり取りだ。
〈「実は、検査結果は出ています。検査結果では、開封前にゴキブリが入ったものと判断できます」と、ここまでとは異なる説明をし始めました。そして、「製造から2年経っている製品なので、弊社の方針で、公表も自主回収もしません。」「今回の事故の責任は、弊社ではなく製造した下請会社にあります。」とおっしゃいました。私は(担当者の)この発言に対して、「お宅が責任を持ってやっている商品について、下請けの責任だということはないでしょう。」と異論を唱えたことを強く記憶しています〉(原文ママ)
不信の念を深めたスーパー側はその後、保健所に虫混入を通報。さらに山梨県内のスーパーなどで構成される業界団体の定例会で、再発防止の観点から情報共有を図るべく、今回の虫混入事故について報告した。その内容を聞いて“はごろもフーズの対応に問題がある”と感じた業界団体関係者を通じて〈マスコミの知るところとなり〉騒動に発展したとある。
直営工場でもゴキブリ混入
17年11月に提訴された今裁判の争点のひとつは「はごろもフーズから示された衛生管理基準などに沿って日々管理を行い、同社による工場への立ち入り検査や抜き打ち監査なども受けてきた」(増田氏)という興津食品が、偶発的な虫混入事故の責任をどこまで負うべきかという点だ。
そもそも製造過程での虫の混入はそれほどあってはならない異常事態なのか。
はごろもフーズの下請け工場として約50年の歴史を持つ興津食品の缶詰製造の歴史において、実はゴキブリが混入した事故は今回を含めて計2回ある。裁判資料によれば、15年10月にも一度、ゴキブリ混入事案が発覚。この時ははごろもフーズと協議して対策強化を行ったとされる。
一方で、はごろもフーズの直営工場や他の下請け工場でも15年度から17年度にかけて、計4件のゴキブリ混入事案が発生していたことが裁判で指摘されている。
「他の混入事案について、はごろもフーズ側は一切の反論をしていません。ただし、これらのケースはメディアで報道されることもなく、当然、製造元に賠償を求めるなどの措置は取られていない。今回の興津食品のケースだけがメディアやSNSで叩かれ、想定外の批判の高まりを受け、はごろもフーズはおよそ50年の付き合いがある下請けをあっさりと“スケープゴート”にしたという構図です。保身のためにこんな暴挙が許されていいはずはありません」(増田氏)
はごろもフーズに改めて取材を申し込んだが、
「いまだ判決文を精査中でもあることから、コメントは差し控える」(同社企画部)
との回答だった。
騒動を機に売上高の約9割を占めた同社との取り引きを打ち切られ、現在は事実上の廃業状態にある興津食品。残されたのは「正義」を求める闘いだけという。
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