漁業界の因習と既得権益に挑むシングルマザーが躍動する「ファーストペンギン!」 沈みゆく日本のリアルを描く気骨
魚を知らない人、魚を食べない人が増えた。おまけに魚が取れない、漁師が潤わない、後継者もいない。ないない尽くしの漁業の世界に、ひとりのシングルマザー(奈緒)が飛び込んでいく「ファーストペンギン!」。後継者は育たず、漁獲高も激減、かさむ経費で大赤字を抱え、思考停止状態の漁師たち(堤真一・梶原善・吹越満ら)を束ねて、新規ビジネスを展開する物語だ。
個人的には人ごとと思えなくて。というのも、我が夫が静岡で干物屋を営んでいるから。良質で安価なアジやサバをノルウェーやオランダから輸入していたが、ここ数年は激減。原料の魚が入手困難ではどうしようもない。脂ののったうまい干物を安価で提供することにこだわってきたが、来年泣く泣く廃業することに。夫はこの10年、預貯金を取り崩し保険も解約して店の借金を解消。黒字に転換させたものの、原料不足では持続不可能。漁師も魚市場も加工業者もどこも厳しくて、みんな崖っぷちだから……。
このドラマは実話に基づいているが、日テレが大好きな美談とはちょいとひと味違う。ヒロインが体験する稚拙な嫌がらせに情報操作の数々。女の活躍を阻むのに使われる、定番の「枕営業・美人局・詐欺師扱い」。並々ならぬ苦労と辛酸が凝縮されていて、孤軍奮闘の奈緒を応援せずにはいられないのだ。
既得権益層が暴利をむさぼる前近代的かつ理不尽な仕組みで首を絞められているにもかかわらず、「波風立てずに穏便に」を美徳とし、「どうせ変わらない」という諦観。要するに「漁協が魚の販売ルートから価格まで牛耳っていて、船の燃料や氷もマージン取ってぼったくっているのに、当の漁師たちは不満や疑問の声を上げずに唯々諾々」っつう。
疲弊と衰退で絶望している漁業従事者をコミカルかつシニカルに描いているのだが、漁協組合長役の梅沢富美男は笑えないくらいリアル。なんかもう権化。日本社会の構造上、この手のおじさん1万人以上いるよね。天下りの顧問とか、謎のプロデューサーとかさ。
一所懸命な奈緒に感化され、漁師たちも徐々に変わっていく。お人好しの堤も、理解力が驚きの低さの梶原も、心配性でびびりの吹越(海に落ちたり小屋に突っ込んだりの体当たり)も、さらには若手漁師(鈴木伸之・上村侑)も協力体制へ。
今後はさらに、他の女たちも動くと思われる。男尊女卑の魔窟・農水省で働く官僚(松本若菜)に、リサーチ&サポート能力が高いママ友(志田未来)、魚のプロであり、リテラシーある仲買人(ファーストサマーウイカ)は協力的。そうそう、堤の義理の息子で、ゲイであることを告白した医者(渡辺大知)も強い味方だ。
因習、無知な差別意識、人任せのくせに新しいことや自分の知らないことをとにかく拒む中高年や老人をどう変えていけるか。人を動かす難しさで行き詰っている人に薦めたい作品だ。
沈みゆく日本の現実を直視した、問題提起の多いドラマは一般的にはなぜかウケがよくないが、その気骨が評価されるよう願う。