社会派ドラマ「エルピス」の見どころ 長澤まさみが頻繁に口にする“空気”の意味
「エルピス」は何を意味するのか
第3話のラストで恵那は驚くべき行動に出た。自分で取材した冤罪特集のビデオを「フライデーボンボン」で勝手に放送してしまったのだ。
もっとも、恵那は大したお咎めを受けないだろう。一番悪いのはアナが独断でビデオを流せる体制にしていたチーフプロデューサーの村井喬一(岡部たかし[50])なのだから。
なにより、恵那の処分は視聴者が許さない。恵那は「正しいことなら味方は勝手に付いてくる」(第3話)と自分に言い聞かせるように話していたが、その通りになるに違いない。この言葉は今後もキーワードになるはずだ。
恵那には相棒がいる。「フライデーボンボン」の若手ディレクター・岸本拓朗(眞栄田郷敦[22])である。好青年だが、びっくりするほど空気が読めない。
だが、この拓朗の人物造形は渡辺さんのこだわりにほかならないだろう。空気を読む組織、社会を批判するため、空気の読めない拓朗を用意したのだ。いわば拓朗は狂言回しである。
警察も空気に支配され、先輩刑事たちが逮捕した松本の有罪を、現職刑事の平川勉(安井順平[48])は信じて疑わない。しかし、拓朗は平川に食ってかかった。「判決が間違っている可能性もあるじゃないですか」(第3話)。
この言葉に平川はあきれた。恵那も驚いた表情を見せた。一般的な反応だ。もっとも、拓朗の言葉こそ正論にほかならない。裁判官たちは過去に何度も間違えているのだから。おそらく拓朗の言葉には渡辺さんの思いが込められている。
タイトルの「エルピス」とは「パンドラの箱(壺)」に唯一残されていたものなのは既に知られている通り。それが「希望」なのか「災い」なのかは学説が分かれている。
この作品が最終的に「希望説」を取るとしたら、その1つは拓朗ら若い世代の中から、空気を読まずに行動する人間が次々と出てくるということではないか。
「災い」説を取るのだとしたら、その中心人物になりそうなのが元カレ・斎藤である。
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