社会派ドラマ「エルピス」の見どころ 長澤まさみが頻繁に口にする“空気”の意味

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空気を読むことへの批判

 原発専門家の危うさは当初から多くの人が薄々気づいていた。恵那もそうだったはず。だが、それを口にすると、会社や世間から、「空気を読め」と責められる可能性がある。以前の恵那はそれを恐れた。

 恵那に限らない。空気を意識し、それに逆らうまいとするのは日本人全般の特徴だ。

 山本七平はロングセラー『「空気」の研究』(文春文庫)で「日本人の思考と行動は空気という妖怪に支配されている」と指摘した。無謀極まりなかった戦争を止められなかったことなど全ての最終決定権は空気が持つと論じた。

 渡辺さんが描こうとしている日本の問題点も空気だ。なので、恵那は頻繁に「空気」と口にする。

「空気って、どうやったら読まないでいられるんだろ」(恵那、第3話)

 会社や世間の空気を読むことを止めないと、「本当の真実」を伝えられないと恵那は考えている。

 恵那の担当番組は深夜の情報バラエティ「フライデーボンボン」だ。元カレで現在は官邸キャップの斎藤正一(鈴木亮平[39])との路チュー写真を週刊誌に撮られてしまい、それが基で看板ニュース番組から左遷させられた。

 路チューと左遷で恵那はダメになったと世間に見られていたが、本人は第2話で斎藤にこう漏らす。

「私はあのずっと前からダメになっていたんです」(恵那)

 恵那は2008年の入社時には「信頼されるキャスターになりたい」(第2話)と思っていたものの、すっかり忘れ、空気に支配されていた。

 だが、もう違う。変わろうとしている。松本の無罪の証明に奔走するのも目標だった「信頼されるキャスター」になろうとしているからだ。

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