巨人「4番サード原」を知らないFA世代に手詰まり感 松田宣浩「代替補強」で試される“名将の資質”とは

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「生電話」の出番なし?

 今オフ、大型補強を敢行するとみられるプロ野球巨人がフリーエージェント(FA)市場で予想外に苦戦を強いられている。阪神の西勇輝投手と楽天の浅村栄斗内野手は残留が決まり、西武の森友哉捕手、日本ハムの近藤健介外野手はFA宣言したものの、巨人獲得の声は聞こえてこない。在京セ・リーグ球団編成担当者がその背景を説明する。「一昔前のFA選手は、幼い頃から特に巨人の4番で三塁手だった原(辰徳)さんのファンで、憧れの人の下でプレーしたいとの思いが移籍の決め手になることも多かった。しかし、今のFA選手は4番・原どころか、現役時代さえ知らない。むしろ巨人では高橋(由伸)や阿部(慎之助)らを見て育った今のFA選手たちに対し、原さんを前面に出しても通用しなくなっている」。【木嶋昇/野球ジャーナリスト】

 かつて巨人は中日の野口茂樹、西武の豊田清、ソフトバンクの杉内俊哉の各投手らとのFA交渉中、原監督が生電話でラブコールを送り、口説き落とした。ほぼ合意した中でセレモニーの側面が強かったとはいえ、巨人戦が全国放送されていた時代に、主砲として活躍する姿をテレビ画面にかじりついて見ていた人からの言葉は、まさに殺し文句になっていたのだが……。
 
 原監督の現役引退は1995年。今オフのFA資格選手では、巨人が獲得を調査していたとされる西は1990生まれで、選手・原が辛うじて記憶に残っている世代だ。95年8月生まれの森、93年8月生まれの近藤となると、選手・原は記憶にないだろう。FA戦線で原監督のネームバリューが落ちていることも致し方ない。

 一方で今のFA選手に監督・原はなじみ深い。巨人だけではなく、09年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表を頂点に導くなど、名将への道を歩む姿をリアルタイムで見てきた。

 ただ、それはFA移籍では時に逆効果になり得るようだ。過去にFA権取得時に巨人入りせず、残留を決めた選手が所属したNPB球団関係者が語る。

「原さんは名将だからこそ権威も醸しだし、選手が部下としてプレーするには躊躇するオーラがあるのだろう。しかも今は全権を握っていて、それもマイナスに働いているのではないか。活躍できなければ、すぐ切り捨てられる可能性があるということだから。原さんが好むベンチ主導の野球は、今の選手には敬遠されがち。ベンチは『指示』ではなく、『支援』で選手を動かす時代に変わってきている」

巨人「1強」時代の終焉

「原ブランド」の終焉は「巨人ブランド」にも適用できる。

「特にピッチャーならメジャーに行けば、日本とは比較にならない巨額の契約を結べる。野手にしても他のNPB球団とさほど条件面が変わらなければ、プレーのしやすさや、引退後のキャリアなどを総合的に考えるため、巨人でなければならないという理由は弱くなっている」(米大手マネジメント会社の代理人)

 巨人1強の時代が去って久しい。北海道から福岡まで各地域に球団が根付き、それぞれに魅力を備えている。

「これまで巨人は優勝を逃すと、FAでてこ入れし、覇権奪回するという成功モデルがあった。これが使えなくなると、巨人は厳しい」(元NPB球団社長)

 ドラフトでは既に逆指名制度が廃止されており、即戦力のトップアマの補強はままならない。同制度が復活しても今の巨人の訴求力で、以前のようにアマ選手がこぞって集まってくるかどうか。現有戦力の育成は一朝一夕にはいかないだけに、残された巨人の補強の手段は日本で実績を残した外国人選手や、米球界の外国人選手の獲得に頼らざるを得ない。確実に戦力アップが計算できる補強策は八方塞がりだ。

 そんな苦境下で数少ない光明が松田宣浩内野手の獲得と、長野久義外野手の復帰だ。両選手とも実績十分ながら松田は39歳、長野は37歳。近年は衰えが目立ち、フルシーズンはプレーできていない。巨人でも現実的には控え要員からのスタートだが、球界で過去、移籍が復活の呼び水となったケースは少なからず存在する。

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