女性バーテンダーとの不倫に溺れる50歳男性 全てを知っていた息子が放った一言が分岐点

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お礼に食事を

 ところがその数週間後、ドラマのようなことが起こった。いつものように友美佳さんの店で軽く飲んだ誠さんが帰ろうとすると、酔ったふたり組の男性客が店になだれ込んできた。泥酔客は断る方針の友美佳さんが、やんわりと入店を断ると、彼らは「客を追い出すのかよ」と怒りだしたのだ。

「その日はたまたま僕と、あと2人しかいなかった。3人で目を見合わせて、協力しようという雰囲気になりました。ところが年配の男性が『出ましょうよ』と近寄ったとたん、その酔客が殴ったんですよ。これで僕、カッときちゃいまして」

 実は誠さんは空手の有段者なのだそう。見た目も中肉中背で、ムキムキでもないのだが実はかなり強いらしい。

「だからこそ手は出せないんです。しかたなく、『外で話しましょう、ね』ととにかくドアの外へ追い出して、自分も出た。だけど彼らはなかなか階段のほうへ行ってくれない。しかたがないので、ひとりの腕をつかんで狭い廊下を階段のほうへ引っ張っていきました。今日は帰りましょうと言うと、またひとりがつかみかかってきた。それで『いいかげんにしろよ』と声を荒げたんです。振り上げてきた腕をつかんでちょっとひねったら大騒ぎ。そこへ誰かが連絡したんでしょう、警察が来たので引き渡しました」

 店に戻って、警察が何か言ってきたら対処してほしい、何かあったらいつでも連絡してと携帯番号を渡した。

 翌日の昼間、友美佳さんから連絡が来た。酔客は警察で酔いが醒め、かなり反省していたとか。今後何かあったら、警察に連絡するように言われたという。

「彼女が急に『お礼に食事をさしあげたいんですが、ご迷惑ですか』と言った。辞退したけど、どうしてもと言われてありがたく受けることにしました」

 デートではない、これはバーテンダーが客にお礼をするだけと必死で自分に言い聞かせたという。恋心は着実にふくらんでいたのだろう。

「店が休みの日に、ある駅で待ち合わせとなりました。彼女は料理にも関心があるようだから、住宅街にひっそりあるレストランかなと楽しみにして行ったんです」

連れていかれたのはまさかの…

 駅で彼女と会い、5分くらい歩くと言われて連れていかれたのはマンションだった。こういうところに店があるのかと思っていると、彼女がとあるドアの前で立ち止まり、鍵を開けた。

「こういう店なの、と僕はまだ店だと信じ込んでいました。彼女は笑って、『私の自宅ですよ、どうぞ』って。びっくりしたけどそこで逃げるわけにもいかない。彼女に勧められるままにスリッパを履き、リビングに通されました」

 そこから彼女は次々と料理を運んできた。ワインも充実していたし、なにより料理の味がすばらしかった。

「いつしか僕もすっかりリラックスして、いろいろな話をしました。いつかは料理も出せる店をやりたいけど、あのバーをないがしろにはできないと将来のことも話してくれた。料理の説明も彼女らしく、押しつけがましくない程度で好感がもてました。家によばれるなら、手土産くらい持ってきたのにと、つくづく後悔しましたよ。そうしたら彼女、『だって私からのお礼ですから』と。何の気なしに今度はもってきますよと言ったら、そうしてくださいねって」

 前からこんなふうに彼女の自宅に来ていたような気にすらなった。あれは彼女の魔法だったのか、と彼はいまだにあの日のことがわからないと言う。そしてあろうことか、彼はその日、彼女の家に泊まってしまったのだ。

「酔ったんですよ、酔って帰れなくなった。これは本当です。ただ、次の朝早くに目覚めて出ようと、彼女が『このまま会社に行くんですか』と。だったらシャワーを浴びていったほうがいいと言われて甘えました。バスルームを出たら、彼女がバスタオルと冷たい水を用意してくれていて。もう、わけがわからないままに彼女を抱きしめてしまいました」

 一寸先は天国か地獄か。わからなかったが、そうするのが自然だった。そして関係をもってみて、ますます彼は「ごく自然なことをしている」と感じたそうだ。

「最初に武永さんが店に来たとき、私、この人と結ばれると思ったんです、と彼女が言ったので僕もびっくりしました。お互いにそんな思いを抱えながら、1年近くもバーテンダーと客でいたんだな、と」

 そこからふたりは人目を忍んで会うようになった。友美佳さんは彼より一回り年下で独身だった。店にいると落ち着いた風貌から、もう少し年上に見えるが、ふたりきりのときは年齢より若く見えた。不思議な魅力をたたえた女性なのだと彼は力を込める。

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