「日本人の7割は遺伝的に不安に陥りやすい」 特に注意すべきは「権力を持った高齢男性」…健康長寿を阻む孤独にどう立ち向かう?

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危険な孤独解消法

 また、「利他」も重要です。利己的な振る舞いは交友関係をギクシャクさせますし、利他的な行動は、なにも「他を利する」だけでなく、「自らを利する」からです。利他的に振る舞うと、脳内で幸せホルモンであるセロトニンや愛情ホルモンであるオキシトシンが活発に働き、穏やかな気持ちになることが分かっています。

 例えば、公園で遊ぶ子どもを見て、「頑張って大きくなれよ」と思うとセロトニンやオキシトシンが働く。一方で、「このガキ、うるせえな」と思うとアドレナリンなどが分泌され、イライラしたり荒(すさ)んだ気持ちになる。まさに暴走老人へまっしぐらです。

「スマホ断ち」もお勧めです。SNSは、他者とつながりやすくなった一方で、「いいね!」の数などで残酷なまでに孤独の「見える化」をもたらしました。寂しさの原因のひとつがSNSにあるとすれば、一定期間離れて気分転換を図るデジタルデトックスは有効でしょう。

 テレビのつけっぱなしにも要注意です。テレビをずっとつけて生活していると「人の声」が聞こえて安心するという人も多く、2世帯住宅で暮らしている私の母もテレビやラジオをつけたがります。しかし、その「人の声」から会話は生まれず、引きこもりを招いて孤独感を誘発しかねません。結果、認知機能の低下にもつながってしまいます。テレビをつけっぱなしにして「安心感」を得る――これは危険な孤独解消法といえます。

老年的超越

 最後に、孤独感の大きな原因となる「不安」の解消につながる話を紹介したいと思います。

 私も携わっている慶應大学の「百寿者研究」等で、「老年的超越」という言葉が注目を集めています。一般に、加齢とともに足腰が弱り、活動量が減って、認知機能も衰えることは望ましくないものと捉えられがちです。事実、そうした状態になるのをできるだけ避けるために多くの人が健康に気を使っています。

 しかし90~100歳になると、心身が衰え、一般に望ましくないと思われた状態でも、些事は気にせずに幸福感を得られることが分かっています。悟りにも似たこの状態を「老年的超越」と言います。私はこれを「老化」であると同時に「幸せ化」と捉えたいと思います。

 近い将来のさらなる衰えを気にし、不安に苛まれ、孤独感を募らせている高齢者にとって、老年的超越を知っておくことは何がしかの助けになるのではないでしょうか。

前野隆司(まえのたかし)
慶應義塾大学大学院教授。1962年生まれ。東京工業大学卒業、同大大学院で修士課程を修了。カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、ハーバード大学訪問教授等を経て、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授に。人間社会システムデザイン、幸福学を研究。『幸せな孤独』等の著書がある。

週刊新潮 2022年11月10日号掲載

特別読物「死亡リスク増大!100歳まで生き抜くための『死に至る「孤独」』対処術」より

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