竜王防衛にあと1勝 福知山市があやかりたい藤井聡太五冠の強さと人気

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 藤井聡太五冠(20)の2勝1敗で迎えた将棋の竜王戦七番勝負の第4局は、11月8~9日、京都府福知山市の福知山城天守閣で行われ、藤井が95手で挑戦者の広瀬章人八段(35)に勝利した。藤井は竜王防衛にあと1勝とし、4期ぶりの竜王奪還を目指す広瀬は後がなくなった。第5局は今月25~26日に福岡県福津市で行われる。勝った藤井は「次もしっかり準備して臨みたい」、一方の広瀬は「シリーズが続くよう頑張りたい」と話した。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

接戦かと思われたが…

 2日目は広瀬が優位に立つことは一度もなく、藤井との差が広がる一方だった。広瀬の投了は9日の午後3時21分。持ち時間8時間をともに2時間ほど残した。2日制のタイトル戦では、今年1月に行われた王将戦の第2局で当時の王将・渡辺明二冠(名人・棋王=38)を2日目の午後4時15分に投了に追い込んだ一局を大きく上回り、藤井にとっての「タイトル戦最速勝利」となった。藤井とともにファンが待つ大盤解説場に現れた広瀬は、「見どころのない将棋になって申し訳ない」と謝っていた。

 ABEMAの中継で深浦康市九段(50)ら解説陣の聞き手だった女流棋士が、「面白くてもっと見ていたかったのに早く終わって残念」と話していたのに同感である。確かに途中まではかなり面白かった。

 先手は藤井。後手の広瀬が早く角を交換し、双方、居飛車で銀を中央に繰り出す「腰掛銀」の模様になった。途中までは過去にもあった戦型で早いペースで指されたが、藤井が前例のなかった手を指すと、広瀬の手が遅くなった。

 その後、藤井は2筋を中心に、自陣の最下段に据えた飛車の前に香車を配置した直線的な「二段ロケット」で広瀬の玉を狙う。広瀬も8筋の歩で藤井の玉に迫る形だった。

  初日の午後6時になり「封じ手」にするあたりでは、ABEMAのAI(人工知能)の数値もあまり離れておらず、勝算のパーセンテイジは藤井55、広瀬45くらいの数値で推移していた。

 非常に面白い局面で広瀬が手を封じることになった。藤井の「2四香」に対して2筋の自陣内に歩を打って「二段ロケット」を防ぐ方法の他、守らずに「8七歩成」と藤井陣に入り込んで攻撃に出る手も考えられた。

 しかし、2日目の朝、立会人の小林健二九段(65)が開封した広瀬の封じ手は「2八歩」と、敵陣の飛車の頭に歩を打つ手だった。この歩は広瀬が「3六」に攻め上げてきている桂馬の「ひも」が付いていて取れない。だが、藤井が1つ横へ逃がした飛車も、この桂馬を「タダ取り」(相手に駒を与えずに奪うこと)できる位置になっているなど、広瀬には苦しい要素が多い。

実践例の少ない手にも臨機応変の藤井

 ようやく反撃に出た広瀬は「8七歩成」とした。藤井が「同金」とこれを取った後、広瀬が意外な手を指した。「4七歩成」である。やや遠いと思われる藤井の玉に「と金」で迫ってゆく目算か。終盤に逆転を賭けた一手だったが、藤井には予想外だったのか、かなり長考して銀を後ろに引いてこの「と金」を捌いた。

 藤井はその後、相手玉の斜め前の「2二」に歩を打って広瀬の玉を脅かす。さらに「4四」に桂馬を打って逃げ道を包囲し、着実に討ち取りに行く。最後は玉頭に歩を打って取らせて釣り上げて「2四角」の王手。広瀬は白旗を上げた。終盤、藤井に驚くような手があったわけではなく、しっかり自玉を守りながら非常に手堅く勝利を手繰り寄せていった。

 中盤以降、広瀬は飛車を自陣の中央に寄せていたがほとんど攻撃に使えず、最後は最下段に下げて成り込んできた藤井の馬を狙うくらいだった。広瀬の馬も最後は脅威になっていた香車を取るくらいで大きな働きができなかった。最強の駒が大きく働かなくては、やはり勝つのは難しい。広瀬は対局後に封じ手のことを問われると「封じ手になるよりもっと前に何とかしたかった」と話していた。

 藤井は「馬を働かせるのが難しい将棋だった。『2二歩』で指せるかなと思った。第5局まで2週間あるのでしっかり準備して臨みたい」などと振り返った。広瀬は「実戦例の比較的少ない形に誘導したけど2日目は苦しい時間が続いた。何とかシリーズが続くようにしたい」などと話した。

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