最近見る変な悪夢たち 睡眠外来に行きたいけど行けない理由(中川淳一郎)

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 最近、悪夢がひどいです。昔から「たどり着けない」系の悪夢は多かったのですが、その頻度が高くなった。例えば大学4年生の6月、単位がギリギリなのにそれまで授業に一切出ず焦り始め、授業に出ようとするもの。しかし、自分が一体何の講義を取ったか覚えておらず、授業にたどり着けない。「このままじゃ卒業できないよー! 内定辞退しなくちゃいけねぇ!」と焦るのですが、起きた時「オレはもう49歳だな。あぁ、良かった、夢だ」となります。

 こうした夢は相変わらず続いていますが、最近頻出するのが、架空の新聞・雑誌・ネット記事を読む夢です。先日見た夢には漫画「キン肉マン」の中で読者から不評で、打ち切りも匂わされたというシリーズ「アメリカ遠征編」について、新聞が6ページ使って批判するというものが登場しました。

 防衛の専門家のような人物がなぜ、このシリーズがダメなのかを解説するのです。夢の中の私はこの論評をずっと読み続けます。途中、「キン肉マンがアメリカの税関を通るが、果たしてキン肉星人という宇宙人をアメリカの税関は通していいのか? これは防衛の観点からしてすこぶるまずい」などと出てきます。

 漫画の中でアメリカの税関を通るシーンはないので、私の脳が勝手にこのようなシーンを作ったわけですが、とにかくこの人物はこんなことを4ページも書くのです。最後の2ページは誰だかは分かりませんが、この専門家に賛同する人物と、シリーズは実は名作である、と擁護する人物が登場します。

 この手の夢ばかり見ているため、最近ではさっぱり疲れが取れません。というのも、夢の中で文章を構成し続け、長く続くその文章を読むのだから。当然夢の中でも自分は文章を構築し、それをたどっているのですから疲れるに決まっています。しかも、「それはさておきキン肉マンの粟展示誤報に旧帝国テレビ話法と梨のトータルプランニング」みたいな日本語としての体を成していない文章も出てきてしまうのです。

 こんな文章を延々と夢の中で読まされる苦痛よ! 時々、「鳥取県川上市」といった言葉が出てきます。これまでにそんな地名を聞いたことがないだけに、「もしやオレは予知能力や、地球上のすべてのものを夢で見通す能力があるのでは! あるいは、オレが見た夢は未来を予言しているのでは!」と興奮しながら起きてから「鳥取県川上市」を調べますが、そんな市があるわけない。

 本来睡眠とは体のみならず精神をも休ませる行為なはずですが、少なくとも悪夢を見続ける限り、精神は休まらない。しかも、朝起きると6種類の夢を覚えていたりして、睡眠が浅かったことをうかがわせます。

 一体コリャ、どうすれば治るんだ……。クワガタやネコとたわむれるようなのんきな夢を見たいのにまったく見られない。睡眠外来に行くべきなのかもしれませんが、「マスクを着けなさい!」なんて居丈高な医師から言われるのもイヤなので行けない。それにしても「医療崩壊するぞ!」と散々医師から脅されて早や2年10カ月。はい、医療はしっかり崩壊しましたね。何せ熱・咳が出る人は受診できない国になったのですから。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2022年11月10日号掲載

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