米韓の術中にはまりミサイルを撃たされている北朝鮮 怖くて核実験もできない理由

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「ミサイル連射」以外に選択肢がない

 年初からのミサイル発射は、明らかにウクライナ戦争の支援だったが、そう解説した専門家はいなかった。「米国を交渉に引き出すため」と、的外れな分析だった。当初は二週間でウクライナは陥落すると期待した。そうなれば、ロシアからの食糧支援と石油密輸が期待できた。北朝鮮は、ウクライナ戦争に期待した。

 その計算が狂ったところに、米韓の合同軍事演習が始まった。米韓合同軍事演習を北朝鮮軍は、「戦争の導火線」と警戒するから、同じ規模の演習を行う。すると、たちまち軍用石油が枯渇する。

 米韓両国は、これを狙って軍事演習で北朝鮮を挑発している。米韓両国は、北朝鮮が同じように演習を行った場合の石油の使用量を計算している。地上での戦車や軍事車両の動き、空軍戦闘機の飛行状況などから、石油使用量を細かく分析している。

 特に米韓空軍演習は、北朝鮮にとって脅威だ。対抗できる最新の戦闘機がないうえ、戦闘機用のジェット燃料の保有量は少ない。なけなしの軍用ジェット燃料で対抗するしかない、これを知っているから米韓は空軍演習を延長した。

 米韓は、通年での軍事演習を行う予定で、北朝鮮軍の疲弊を狙っている。これまでは、北朝鮮を追い込むと戦争に走るとの懸念から、北朝鮮軍崩壊を狙う作戦は避けてきた。しかし、北朝朝鮮は決して核兵器を放棄しないとの判断から、北朝鮮軍崩壊作戦に、方針を変えたのだ。

 北朝鮮は、米韓合同軍事演習に何らかの対抗をしないと、軍内部の不満が高まる。指導者の威信が崩れる。だから対抗しなければならないが、通常兵器演習では戦車も戦闘機も、艦艇も太刀打ちできない。できるのは、ミサイル発射しかないという訳だ。

 米国はまた、北朝朝鮮がロシアに武器を売却することを警戒し、米韓合同軍事演習を重ねている。米軍による軍事演習が続けば、北朝鮮は武器をロシアに渡せない、と計算した。

通常兵器で軍事衝突すれば勝てないとの教訓

 ところが最近になって、ロシアの軍当局は北朝鮮の武器は使えない、と言い出した。なぜなら、不良な砲弾や銃弾が多く、事故が起きるという。品質の歩留まりが悪いのだ。さらに、ロシアの現有武器よりも古いものばかりだ。

 また、北朝鮮のミサイルには誘導装置がない。軍事衛星を持たないから、軍用GPSが使えないのだ。ロシアとしては造り直さないと使えない。

 ここにきて、北朝鮮はミサイルの重要部品の購入に苦慮している。北朝鮮の核とミサイルの開発は、ウクライナの技術者と技術に密かに頼っていた。ところが、ウクライナ戦争で、ウクライナは北朝鮮と断交し、ウクライナ技術者は北朝鮮を離れ、重要部品も購入できなくなった。

 このため、核とミサイルの技術革新が中断状態に。米韓両国は、北朝鮮軍苦境の情報を入手しており、ミサイルを連発させ、在庫を減らす戦略に出た。アメリカは、北朝鮮のミサイル在庫数を把握しており、発射させて減少させる作戦だ。この挑発に、北朝鮮はまんまと乗せられた。

 軍事衝突の危険が高いとの主張も、間違いだ。北朝鮮は米韓軍の演習時間と場所を外してミサイルを発射している。また、米朝両国は、東南アジアで秘密接触を続けてきた。ウクライナ戦争で、北朝鮮は通常兵器で軍事衝突すれば勝てないとの教訓を得た。

 だが、核兵器をミサイルに搭載できる技術と小型化が、完成していない。アメリカに届く核ミサイルは、まだ開発段階だ。何より、誘導装置がない。命中精度は落ちる。北朝鮮の悩みは深い。

重村智計(しげむら・としみつ)
1945年生まれ。早稲田大学卒、毎日新聞社にてソウル特派員、ワシントン特派員、論説委員を歴任。拓殖大学、早稲田大学教授を経て、現在、東京通信大学教授。早稲田大学名誉教授。朝鮮報道と研究の第一人者で、日本の朝鮮半島報道を変えた。著書に『外交敗北』(講談社)、『日朝韓、「虚言と幻想の帝国の解放」』(秀和 システム)、『絶望の文在寅、孤独の金正恩』(ワニブックPLUS)など多数。

デイリー新潮編集部

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