米韓の術中にはまりミサイルを撃たされている北朝鮮 怖くて核実験もできない理由

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 北朝鮮はミサイルを連日飛ばし、メディアは「軍事衝突の危機」の主張や見出しで煽るが、真相は伝えない。無責任だ。真実は、北朝鮮は日本を攻めきれず、核実験は崩壊につながり、石油は枯渇状態だ。核とミサイル技術不足の危機に直面し、食糧難だ。著名なウォルター・リップマンは、世論の80%以上が同じ方向に向くと社会は危うく、少数意見でも真実を言うのはジャーナリストと学者の使命と述べる。

米韓の「北朝鮮崩壊作戦」挑発

 国際政治判断の基本は、相手についての情報を入手し、相手の弱点をできるかぎり正確に判断することだ。北朝鮮を強大な軍事大国のように話すのは意図的で、情報力と分析力で落第だ。例えば、中国問題では指導部の勢力争いや経済情報が明らかにされ、分析する。朝鮮問題では、なぜそれができないのか。

 まず、北朝鮮は今回のミサイル連射を、演習中は国内では報道しなかった。この真実を誰も指摘しない。米韓の合同軍事演習終了後に、国内に報じた。北朝鮮外務省は、外向けの声明で「『韓』米合同演習」を非難した。その際に、韓国を「韓」と初めて表現したのに、誰も「おかしい」と言わない。南朝鮮が公式の表現だ。

 なぜ連日ミサイルを連射したのか、ミサイルしか対抗手段がないからだ。通常兵器は古すぎで、役に立たない。当初はウクライナ戦争側面支援のために、ミサイルを発射した。今は米韓の「北朝鮮崩壊作戦」挑発にまんまと乗せられている。

 年初から核実験が近いと言われたのに、年末に来ても、実験できない。なぜか。誰も説明しない。これでは、日本外交と情報収集の危機だ。私は当初から「核実験はしない」と述べたが、誰も聞かなかった。

 核実験問題では、学者や在日コメンテーターの予測は当たらず、専門家というにはやや恥ずかしいのに、テレビは繰り返し登場させた。

 例えば、2月から3月にかけ、米政府高官は「北朝鮮が核実験の準備を終えた」と述べた。慶應大学教授や在日コメンテーターが「核実験は近い」と言い始めた。

 在日のコメンテーターは、金日成主席誕生日(4月15日)までに核実験をすると断言した。それが外れると、「米国の裏をかいた」と言い訳した。「4月核実験」が外れると、「朝鮮戦争勃発の6月25日まで」と言った。それも外すと、「朝鮮戦争休戦の7月27日まで」とのご宣託。

 これも間違えると「金正恩氏が決断すればいつでも可能」と、恥ずかしげもなく語った。「中国の共産党大会(10月)から米国の中間選挙(11月8日)までの間に、核実験する」と語る元平壌特派員もいた。いずれも間違えた。

 なぜ当たらないのか。専門家が予想屋になってはいけない。たとえ外れても、根拠を語らないといけないのに、その意識がない。

 国際政治分析の基本は、紛争について、まず国際法上違法か違法でないかを、問題にする。北朝鮮のミサイル発射は、明らかに国連安保理決議違反の違法であるから、政府も専門家も「国連安保理決議違反で、国際法違反」と指摘しなければいけない。核実験も、国連安保理決議とNPT(核拡散防止条約)違反で国際法違反だ。国連安保理決議は、国際法である。

 外れた予想を、「アメリカの裏をかいた」と言う、根拠のない北朝鮮擁護論だ。さらに「核実験すると思う」と発言した専門家もいた。「思う」は、専門家が絶対に使ってはいけない言葉だ。「思う」は根拠のない、主観的な願望でしかない。専門家は客観的な根拠を話すべきだ。

ロシアが拒否権発動すれば、世界は核拡散に

 北朝鮮は7回目の核実験をすれば、崩壊に向かう可能性がある。石油を一滴も輸入できなくなるからだ。石油がなくなれば、北朝鮮軍は維持できない。北朝鮮は軍と工作機関・秘密警察が体制を支えている国家だから、体制崩壊の危機に直面する。

 なぜ北朝鮮は核実験できないのか、米国は核実験への国連制裁として、(1)石油の全面禁輸、(2)密輸タンカーの臨検、(3)北朝鮮貨物船の入港禁止、(4)北朝鮮への輸出入禁止――などを準備し、中露両国に通告している。

 この制裁の中で、一番効果があるのは「石油全面禁輸」だ。北朝鮮は国連制裁で、現在は70万トンの石油しか輸入できない。原油50万トンと製品20万トンだ。原油50万から軍用石油は20万トンしか精製できない。つまり、北朝鮮は年間最大40万トンしか輸入できない状態にある。

 これでは、軍は維持できないし、戦争の準備にはとても足りない。産業用にも使えない。戦争しない自衛隊でさえ、年間150万トンの石油を消費する。韓国でさえ1億トンを超える石油を輸入する。戦争を予定する北朝鮮が40万トンでは、軍の維持は厳しい。だから、海上瀬取りの密輸を重ねているのだ。

 日本の専門家はこの数字を頭に入れていないから、北朝鮮の「危機的状況」がわからない。北朝鮮の宣伝に乗せられてしまう。北朝鮮の報道は工作と宣伝が目的で、真実が隠されている。テレビの北朝鮮報道は、まるで北朝鮮の宣伝機関化している。

 北朝鮮が核実験すれば、国連安保理には少なくとも「石油全面禁輸」が提案される。中露が拒否権を発動しないと、制裁は実行される。中露の「拒否権行使」が確実でないと、核実験には踏み切れないのだ。

 こんな情報も流された。ロシアはウクライナ戦争で苦境に陥り、北朝鮮に核実験を要請している。また、国連安保理の制裁案にロシアは、拒否権を発動すると約束している。この情報は、フェイクではないかと疑う。

 ロシアが拒否権を発動すれば、5大国(米英仏露中)だけが核爆弾を保有できるNPT体制が、崩壊する。ロシアの拒否権は、北朝鮮が核兵器を保有してもいい、と認めることになる。NPT条約の崩壊を意味する。日本や韓国、台湾も核保有が可能になる。

 これを認めるとロシアは大国の地位と発言力を失い、三流国に転落する。だから、中国は北朝鮮の核実験に強力に反対している。

 でも、なぜ米政府は今年の春から、「北朝鮮の核実験は近い」と言い続けたのか。いつもの心理戦だ。米政府は11月8日の中間選挙までは、核実験をさせたくなかった。だから、核実験阻止のために「実験は近い」と言い続けた。北朝鮮はこの作戦に引っかかり、米国の偵察衛星が通過する時間を狙い、核実験場の作業を展開してわざと実験が近いとの脅しをかけた。

 米国は、北朝鮮の対応を利用して、中露に「絶対に核実験させるな」と要請した。もしも核実験した場合に、中露が国連安保理で拒否権を発動できないように、との作戦だ。米国があれほど注意したのに、核実験させたのは中露の責任と主張するためだ。

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