メイド・イン・ジャパンの高品質パソコンを再び世界に――山野正樹(VAIO代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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再びグローバルへ

佐藤 いまのVAIOの経営にはどんな課題がありますか。

山野 一つは、認知度が低いということですね。

佐藤 私たちの世代はよく知っていますから、若い世代ですね。

山野 そうです。それからシニア世代もVAIOブランドは知っていても、ビジネスコミュニティーにいいパソコンを提供していることは知らないんですよ。私自身、いくつかの企業へ営業に行きましたけども、皆さん驚かれる。そこで評価をしていただけたので、名だたる大企業数社から受注しました。今後はそうした積み重ねをしていくことが大切です。

佐藤 企業で決定権を持つ人は、VAIOをよく知る世代でしょう。

山野 そうですね。もう一つの課題は、「SIer(システムインテグレート企業)」と呼ばれる会社を通じての販売を強化していくことです。彼らがシステム設計を請け負う中で、どのパソコンを使うか、という商談も出てくる。そうした間接販売もしっかりやっていかねばなりません。

佐藤 それも一気に大きな数が動く。

山野 それから、弊社にある、「最高のものを作っているから多少コストが掛かっても仕方ない」という雰囲気を改めることも必要です。このために値段が相当高くなっていた。

佐藤 意識の上では、「芸術品」に近いものだった。

山野 そうなんです。他社と同じ価格帯とは言いませんが、製品の良さがわかる方の手の届く値段にしたい。

佐藤 要するに20万円以下の価格帯もありますということですね。

山野 はい。そのために製品の作り方を変えました。これまではまず最上位機種を作っていました。その高いレベルの機能や部品をそぎ落として安い価格帯にしていった。それをまずメインストリームの製品を開発し、そこから上位機種を作っていくようにしました。つまり大量に売る製品を開発して部品の調達コストを下げた上で、上位機種を作る。その方が安くできますからね。

佐藤 これは大きな改革です。

山野 そのために新しいプロジェクトチームを立ち上げました。来年、このプラットフォームから新製品を投入する予定です。

佐藤 コロナ禍や米中デカップリング(分離)で半導体不足が深刻化しましたが、その影響はありますか。

山野 半導体不足に起因するキーディバイスのコストアップは結構あります。またコロナによる中国のロックダウンの影響は大きく、オーディオをデジタル化する1~2ドルの小さなチップセットが入ってこなかった。これは中国にしかないのです。安い部品でも、一つ欠けるとモノが作れません。

佐藤 半導体のサプライチェーンは長い上にかなり複雑です。

山野 だから国家間の問題が生じたりロックダウンがあると、想像以上の影響を受けますね。

佐藤 それから円安もあります。

山野 円安ではエネルギーと食糧が注目されますが、パソコンも大きな影響を受けています。部品の半分以上を海外に依存し、ドルベースで取引していますから。これは早く何とかしてもらいたいですね。

佐藤 今後はその中で舵取りをしていくことになりますが、これから会社をどう展開させていきたいですか。

山野 VAIOはソニーから独立後にスリムダウンし、健康な体にはなりました。でもこの縮小均衡状態で生き残れるかといえば、そんな甘い業界ではありません。グローバル大手は2桁違う生産量で稼いでいますので、弊社もある程度ボリュームがなければならない。そこでもう一度グローバル化も見据えていく必要があります。

佐藤 再度、海外に出ていくのですね。

山野 いま実際に展開しているのは、アメリカ、中国、ブラジルです。さらに東南アジア諸国にも広げていきたい。

佐藤 コンシューマー向けと法人向けのバランスはいかがですか。

山野 これはいまのままでいいと思います。その上でボリュームを増やしていく。もっとも10年、15年後に、この業界がどうなっているかは、わかりません。1990年代末にスマホが登場し、パソコンと同じことができるようになるとは、誰も想像していなかった。だからあまり先読みしても仕方ありません。私のミッションは持続的に成長していくための基盤作りで、いまは足元を見つめてきちんと実績を積み重ねつつ、新しいことにも取り組んでいきます。そうしたら10年後には全然違うことをやっているかもしれないですけどもね。

山野正樹 (やまのまさき) VAIO代表取締役社長
1961年東京都生まれ。東京大学経済学部卒。84年三菱商事入社。米国三菱商事勤務などを経て2001年ユーフォリンク社長、06年ビーウィズ社長、13年アイ・ティ・フロンティア執行役員副社長。14年三菱商事理事・ITサービス事業本部長、17年同社シンガポール支店長。20年日本産業パートナーズに転じ、21年より現職。

週刊新潮 2022年11月3日号掲載

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