メイド・イン・ジャパンの高品質パソコンを再び世界に――山野正樹(VAIO代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】
四つの商品価値
佐藤 久々に拝見すると、やはりVAIOはスタイリッシュですね。
山野 私はVAIOには四つの価値があると考えています。その1番目が「カッコいい」ことです。これはソニーからの遺伝子を受け継いだもので、見た目のカッコよさもさることながら、「機能美」が大事です。例えば、ノートパソコンのLCD(液晶ディスプレイ)を開きますね。普通のパソコンはつなぎ目のヒンジ(蝶番(ちょうつがい))が見えますが、VAIOは見えません。LCDとキーボードだけに集中していただくため、シンプルな構造になっています。
佐藤 美しいデザインです。
山野 それからLCDを開くと、キーボードが斜めに少し持ち上がります。使う側からはキーボードが奥に向かって高くなる。
佐藤 つまり斜めになって、キーが打ちやすくなるわけですね。
山野 はい。閉じている時は真っ平です。最近、他社製品でもこの構造をまねたものがありますが、弊社ほどは打ちやすくないんですね。それはVAIOのノートが奥から手前にかけて薄くなっているからです。これだとデスク面からあまり段差を感じずにすみます。これを「ウエッジ・シェイプ」と呼んでいます。
佐藤 カッコいいと同時に機能美でもあるのはこういうところですね。実にVAIOらしい。
山野 価値の2番目は「賢い」ことです。みなさん、インテルのCore i5とかCore i7などCPU(中央処理装置)が同じなら、性能も同じだと考えていますよね。でもメーカーによってCPUのパフォーマンスはかなり変わってくるんですよ。
佐藤 どうしてですか。
山野 CPUは動き出すと熱を持ちます。すると動きが鈍くなる。つまり性能が落ちます。だから排熱を効果的に行う必要があるんです。
佐藤 パソコンの内部では小さなファンが回っていますね。長い時間使っていると、フル回転し始めます。
山野 熱を逃がすにはファンや排熱パイプを大きくしなければならないのですが、そうすると全体が重くなる。そのバランスは各社の裁量に委ねられています。VAIOは最軽量ではありませんが、十分軽く、かつ排熱効果が高い。だからCPUの賢い状態が維持できます。
佐藤 そこは大きな強みですね。
山野 また、最新のVAIOには、「AIノイズキャンセリング」という機能を標準装備しています。AIに人の声を学習させ、声とそれ以外の雑音を分離する。だから周りの音がカットされ、テレビ会議に集中できます。さらに自分だけでなく、相手側の雑音を消すこともできます。
佐藤 賢いですね。私はオンラインサロンを開設していますし、ネットで授業をすることもありますから、その必要性がよくわかります。
山野 また「プライベートモード」という機能も標準装備で、パソコンの正面の音は拾いますが、横からの音声は入りません。例えば在宅ワークをしていて、横からの「ご飯できたわよ」という声はカットされます。
佐藤 どちらもリモートワークを念頭に置いた機能ですね。これから必須になっていくでしょう。
山野 VAIOの3番目の価値は、「本物」であることです。例えばキーボード。うるさい音がしません。新幹線の中で、時々カチャカチャとキーを叩く音が気になるじゃないですか。オンライン会議でもうるさい時がありますね。それがない。
佐藤 新幹線の中では休んだり寝たりしている人もいますから、トラブルになることもあります。
山野 そしてキーボードに続くパームレストは、アルミであることにこだわっている。他社はプラスチックで安く仕上げている製品が多いのですが、こうした点でも本物感を醸し出すようにしています。
佐藤 塗装が剥がれないし、摩耗もしないわけですね。
山野 4番目は、「丹精込めた逸品」という点です。弊社の本社と工場は長野県安曇野市にあります。そこで日本のメーカーとして、よりよいモノづくりを追求している。もちろんロボットを使いデジタルテクノロジーも活用していますが、人がかなりいます。それは機械ではできないことを人がやっているからです。例えば「官能検査」と呼んでいる最終検品です。不良品を見分けるのに、訓練を積み重ねたスタッフだと、機械が見分けられない微妙なゆがみやひずみが即座にわかります。こうして技術者が一台一台品質チェックをして製品を完成させる。それを「安曇野FINISH」と言っています。
佐藤 いまでは圧倒的少数派になったメイド・イン・ジャパンのクオリティーを追求している。
山野 もちろん経営者として海外生産を考えないわけではありませんが、VAIOにはやはり日本人独特の繊細さやモノづくりへのこだわりが詰め込まれている。日本ならではの製品だと思います。
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