韓国生保がドル建て債券の償還延期、一気に高まる通貨危機の恐怖

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乾燥した山中でタバコを捨てる

――政府は対策に動かないのですか?

鈴置:一応、動いています。10月23日、「50兆ウォン+アルファの規模で社債やCPを市場から買い入れる」と宣言しました。もっとも経済界からは「少なすぎるし、遅すぎる」との不満の声が大きい。

 そもそもこの流動性供給は「レゴランド事件」という失態の後始末だったのです。「レゴランド」とは江原道が第三セクターとして今年5月にオープンしたテーマパーク。開業までに紆余曲折があって借金が積もっていました。

 今年7月に新たに江原道知事に就任した金鎮台(キム・ジンテ)氏は9月28日に突然、レゴランドを運営する第三セクターへの債務保証を打ち切ると宣言しました。

 衝撃はこの第3セクターの債権者だけでなく、金融市場全体に広がりました。ただでさえ、カネ詰まりだったところに「地方自治体が債務保証した債券も不渡りになる」現実に、マーケットが凍りついたのです。

 金融界はじめ韓国社会は金鎮台知事を「乾燥した山林で火のついたタバコを捨てる非常識な人」と猛攻撃しました。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の対応能力にも疑問の声があがりました。

 例えば、朝鮮日報の社説「司令塔が見えぬ“危機対応”、大統領が直接非常体制を主導せよ」(10月29日、韓国語版)です。

・韓国電力、仁川空港公社など最優良の信用等級の公企業も社債発行に失敗するという資金大混乱の中、10月27日に大統領が主催した緊急経済民生会議は政府の危機対応がきちんと行われているのかとの疑問を呼んだ。
・経済副首相は緊急の懸案である債券市場の大混乱に対し、一言の言及もなく、輸出の活性化対策についてだけ話した。
・金融市場を管掌する金融委員長も、住宅貸し出し規制の緩和のみに集中して報告した。会議中、SNSでは「レゴランド事態になぜ、言及がないのか」との書き込みがあふれた。

 この会議はネットで完全中継されました。政府の対応に期待して中継を見た国民は、そのピンボケぶりに頭を抱えたのです。

政争で頭がいっぱいの尹錫悦

 興国生命のスキップでも、政府の対応には疑問符が付きました。金融委員会などが11月2日に出した声明では「事前に知っていた」ことになっています。以下が冒頭部分です。

・金融委員会などは興国生命の新種資本証券(永久債)の早期償還権行使と関連する日程・計画をすでに認知していた。

 でも「知っていた」のなら、声明はシンガポールでスキップが発表された11月1日か、どんなに遅くても2日朝に出すべきでした。

 ところが、声明を報じた通信社の配信は午後3時前後。これから見て、声明は2日午後に公開されたのでしょう。スキップを発表前に知っていた、との政府の主張は相当に怪しいのです。

――金融システムが大混乱に陥っているというのに、なぜ政府の対応は遅いのでしょうか。

鈴置:尹錫悦大統領は政争で頭がいっぱいだから、と解説する韓国人が多い。左派は大統領の弾劾を狙って10月22日以降、大規模集会・デモに乗り出しています。

 尹錫悦大統領は今、左派の攻勢をどうかわすかに集中せざるを得ない、というのです。下手すれば、朴槿恵(パク・クネ)大統領退陣劇の再演です。

 しかし、それに気をとられ過ぎれば李明博(イ・ミョンバク)政権がスタートした際、左派の狂牛病デモが猛威をふるい、そうこうしているうちに通貨危機に陥ったのと同じになります。

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