韓国生保がドル建て債券の償還延期、一気に高まる通貨危機の恐怖
韓国の中堅生保、興国生命保険がドル建て債券の償還を延期した。ドルの借り入れが困難になったためで、メディアは通貨危機の懸念が増したと一斉に報じた。韓国観察者の鈴置高史氏が解説する。
「コールのスキップ」が発生
鈴置:騒動のきっかけは11月1日、資産規模で韓国第8位の生保、興国生命保険が永久債の「期限前に償還できる」との条項を現時点では発動せず、延期すると発表したことです。
永久債には「発行5年後に償還できる」とのオプションを付けるのが普通です。発行体は5年後に新たな永久債を発行し、既発債の買い手に乗り換えてもらう。要は、実質的には5年債となるので金利を低く設定できるのです。
――だったら、初めから5年債を発行すればいいのでは?
鈴置:金融機関には健全性確保のために、ある程度以上の自己資本比率を維持することが求められています。永久債は規制上は自己資本と見なされるので、実質的には5年債であっても永久債の形をとるのです。もっとも、ごくまれに「期限前償還」のオプションを発動せず延期することがあって、「コールのスキップ」と呼びます。
興国生命のシンガポール証券取引所(SGX)での発表によれば、スキップの対象となった債券は発行総額5億ドル、年利4・475%の永久債。2022年11月9日が発行5年後に当たるので、その直前に発表したわけです。
興国生命はスキップに関し「金利の急速な変動など、韓国と世界のいずれの金融市場も極めて不安定になった」と説明しました。要は、米国の急激な利上げの直撃を受けたのです。
通常のように新たな永久債を発行しようとしたものの、8%台の年利を提示しても引き受け手がなかったと韓国各紙は報じています。そこで興国生命は既発債を半年間をメドに持ち続けてもらう半面、ペナルティ的な金利を上乗せする羽目に陥ったのです。金利は年6・7%台まで上昇すると見られています。
興国生命のリスク基準の自己資本比率は157・9%。金融当局が求める150%を少し上回っているに過ぎないので、金利が高くなるからといって5億ドルの債券の発行をやめる選択肢はありませんでした。
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