「エルピス」で感じる長澤まさみの“凄味” エンドロールの参考文献で読み解くストーリー

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制作陣の「覚悟」

 番組のタイトルに続いて、こんなクレジットが表示される。

「このドラマは実在の複数の事件から着想を得たフィクションです」

 つまり、ドラマという架空の物語の形を借りて現実と向き合っていくという「闘争宣言」だ。

 さらに番組の最後では、9冊もの「参考文献」を明らかにしている。

▼菅家利和『冤罪 ある日、私は犯人にされた』(朝日新聞出版)
▼菅家利和、佐藤博史『訊問の罠――足利事件の真実』(角川oneテーマ21)
▼清水潔『殺人犯はそこにいる―隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件―』(新潮文庫)
▼小林篤『足利事件 冤罪を証明した一冊のこの本』(講談社文庫)
▼佐藤博史『刑事弁護の技術と倫理 刑事弁護の心・技・体』(有斐閣)
▼下野新聞社編集局・編『冤罪 足利事件 「らせんの真実」を追った四〇〇日』(下野新聞社)
▼佐野眞一『東電OL殺人事件』(新潮文庫)
▼高野隆、松山馨、山本宜成、鍛冶伸明『偽りの記憶――「本庄保険金殺人事件」の真相』(現代人文社)
▼日本弁護士連合会人権擁護委員会・編『21世紀の再審――えん罪被害者の速やかな救済のために』(日本評論社)

 注目すべきは、9冊のうち5冊までもが「足利事件」関連の書籍であることだ。

 1990年5月12日、栃木県足利市内のパチンコ店で当時4歳の幼女が行方不明となり、翌朝、市内の渡良瀬川河川敷で遺体が発見された。

 幼稚園のバス運転手だった菅家利和さんが有罪判決を受けて服役。しかしその後、本人のDNA型が犯人のものとは一致しないことが判明し、再審のうえ無罪が確定した。

 このドラマには、現実の足利事件に対する制作陣の見方や捉え方が、何らかの形で反映されていくはずだ。

 そこには警察の失態だけでなく、テレビを含むメディアが何をして、何をしなかったか、という問題も含まれる。かなりスリリングな試みなのだ。

長澤まさみの「覚醒」

 このドラマの長澤まさみには、これまでにない「凄み」がある。

 自分を押し殺し、生ぬるい日常に埋没していた浅川。しかし、今回のことをきっかけに自分を変えようとしているのが、現在の彼女だ。そこにはかなりのリスクがあるが、それも覚悟の上だろう。

 そんな浅川と、女優として新たなステップへと進もうとする長澤が、どこか重なって見える。不自然さを感じさせないリアルな凄みは、一種の「覚醒」の産物かもしれない。

 それを支えているのが、プロデューサーの佐野や脚本の渡辺などの制作陣だ。

 最近の佐野が手掛けてきたのは、『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ制作・フジテレビ系)であり、『土曜ドラマ 17才の帝国』(NHK)である。どちらもテレビの常識やドラマの定型を蹴散らすような快作だった。

 しかも、今回の『エルピス』を含め、いずれも2020年6月まで所属していたTBS在籍時代から練ってきた企画であり、その実現のためにカンテレ(関西テレビ)へと移籍したのだ。こんな「1本入魂」の作り手、見たことがない。

 渡辺もまた、只者ではない。尾野真千子主演『カーネーション』で、NHKの朝ドラに異例の「不倫」を持ち込んだ脚本家である。

 さらに、大根仁監督による緩急自在の演出とキレのいい映像も長澤を輝かせている。

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