泣きながら抱きついた女子大生の恐ろしい復讐 46歳男性が“不倫未遂”でうつ病になったワケ

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突然抱きつかれ…

 それでもわからないのは男女の仲。少しずつ距離が縮まっていった。遼一さんが気づかないほど、ほんの少しずつ。そして数ヶ月後に、いつもとは違ってやたらとお酒をあおって酔った怜子さんを、彼は送っていくはめになった。

「僕は彼女がお母さんと同居しているとばかり思っていたんです。ところが酔った彼女が鍵を開けられないというので、僕が代わりに開けてみると中は真っ暗。電気をつけたら、どうやらそれほど広くはない1LDKで、ひとり暮らしなのと聞いたら、そうだと言う。お母さんはと聞いたけど答えは返ってこなかった。それほど酔っていたんですよ、確かに。だから彼女の靴を脱がせて、肩を貸しながら歩いてベッドに横たえました。外から鍵をかけて部屋のポストに落としておくからねと言ったけど返事がない。ふっと振り返ったら目の前に彼女の顔がありました。そのまま抱きつかれた。彼女は泣いていました。どうしたのと言っても何も言わず、ただしゃくりあげていた」

 若い女性の情緒不安定だろうと察した彼は、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してコップに注ぎ、彼女に飲ませた。すると彼女は先ほどより強く抱きついてきた。振りほどくこともできないほどだった。

「怜子ちゃん、きみにはきみにふさわしい人がいる。僕なんかとそういうことになっちゃダメだよと言いました。次の瞬間、彼女は寝息を立てていた。そうっと部屋を出て鍵をかけて帰りました」

 自分を父親のように思ったのだろうか、まさか恋心を抱くはずはないと遼一さんは苦笑するしかなかった。翌日、怜子さんからメッセージが来て「何も覚えていない。ごめんなさい」とあった。

腰を抜かした一枚の写真

 しばらくしてまた「ご飯に連れて行ってください」と彼女らしい明るい電話がかかってきた。前回のようなことはないだろうと食事に行った。ところが食事が終わると、もう一軒行きたいと言い、また酒をあおろうとした。そんなことならつきあえないと遼一さんはピシャリと言った。

「ごめんなさい、と彼女はしょげていました。かわいそうになったので送っていったんです。どうしてもコーヒーをつきあってと言われて部屋に上がった。そのとき、見てしまったんです」

 先日は気づかなかっただけなのか、あるいは彼女が隠していたのか。本棚にあった写真立てに写っていたのは、彼が学生時代つきあっていた恋人だった。

「見た瞬間、腰を抜かしそうになりました。何かの間違いなのかと何度も見ましたが、かつてつきあっていた紗織でした」

 私が娘だって知らなかったんですか、と怜子さんがつぶやいた。

「僕は声すら出せなかった。正直言うと、男女関係にならなくてよかったと思った。同時に、実は僕は怜子ちゃんを女として意識していることにも気づかされました。もしその日、写真を見なかったらそういうことになっていたかもしれない」

 彼は写真の前に座り込んだ。怜子さんは、写真に向かって言った。

「お母さん、よかったね。二十年ぶりに会えたね。私を産んでよかったでしょ。私もお父さんに会えたよ」

 ぎょっとして怜子さんと見ると、「母は死にました」と低い声が聞こえた。

 背中に氷を入れられたような気持ちになり、彼は立ち上がって帰ろうとした。ところが足がもつれて立つこともできない。

「あなたは知っていたんじゃないんですか、母が妊娠していたことを。怜子ちゃんがそう言ったんです。いや、知らないと言うのが精一杯だった」

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