国際刑事機構が独自のメタバースを立ち上げた深い理由

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コロナが変えた関係性

 コロナ禍前の日常生活は対面が基本だったが、パンデミック対策として在宅勤務やリモートによる授業などが定着したことでその機会が大幅に減少した。ネットの普及で職場やコミュニティーとのつながりが希薄になったところにパンデミックが追い打ちをかけ、仮想世界のリアリティーが勢いを増している。現実世界の経験が少なく、物心がついて以来、ネットに慣れ親しんでいる若者たちにこの傾向は強いだろう。

 社会を支える関係のあり方が変わりつつあるのだ。

 かつて数十人単位で狩猟や採集生活をしていた時代には協力相手は血縁者だけだったが、約1万年前に農耕が始まると、狭い土地で大人数が食料を得て暮らすようになった。

 都市が生まれると見ず知らずの他人と互いに協力する必要が生まれたが、他人と協力するには相手が信頼できるかどうかを知る必要がある。

 社会の規模が大きくなると多くの他人の内面を深く知ることが難しくなったことから、そこで重要性を増したのが第三者による評判だった。直接知らない相手でも第三者の評判がわかれば協力できるかどうか判断できる。

 農耕社会の形成から長い間、人々は多くの他人と対面し、対面を通じて目の前の相手の内面や第三者の評判などを集めてきたが、ネット上では信憑性が低い情報が多く、他人の内面や第三者の評判を確保することが困難だ。専門家は「ネット上では相手がどんな人物なのかわからなくなっており、協調関係を築くのが難しくなっている」と警鐘を鳴らしている(10月30日付日本経済新聞)。

「たかが対面、されど対面」

 私たちはあまり意識していないが、農耕社会から脈々と築いてきた協調関係の危機が起きている。仮想世界の拡大を野放しにすれば、社会は犯罪が多発する「無法地帯」と化してしまうのかもしれない。

 このように考えれば、メタバースが内包する問題はインターポールだけで解決できる代物ではない。新たな協調関係のあり方を社会全体で議論すべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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