国際刑事機構が独自のメタバースを立ち上げた深い理由
国際刑事機構(インターポール)は10月20日、インドのニューデリーで開催した第90回総会で「バーチャル世界での諜報活動に関する訓練の一環として『インターポール・メタバース』を立ち上げた」と発表した。
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メタバースはコンピューターの中に構築された3次元の仮想空間のことを指す。利用者たちは思い思いの「アバター」と呼ばれる自分の分身で仮想空間に参加し、買い物や商品の製作・販売などの経済活動を行っている。メタバースは「もう1つの現実」になるとの期待が生まれているとされている。
メタバースという用語は「超(メタ)」と「宇宙(ユニバース)」を組み合わせた造語だ。
米国の作家のニール・スティーブンソン氏が1992年に発表した小説『スノウ・クラッシュ』に登場する架空の仮想空間サービスの名称だったが、その後、テクノロジーの進化によって様々な仮想空間サービスが登場すると、仮想空間自体の名称として用いられるようになった。2021年、世界的ソーシャルネットワーク企業であるフェイスブックがメタバース実現に向けて本格的に動き出すと、日本でもメタバースという用語が人口に膾炙するようになった。「2027年までに大企業の4割がメタバース上のプロジェクトを開始する」との業界予測も出ている。
取り組みの理由は
インターポールは国際犯罪防止を目的として世界の警察機関が参加する国際組織(加盟する国・地域は195カ国)だ。インターポールはこのような取り組みを開始した理由について「犯罪者が既にメタバースを悪用し始めている」とした上で「独自のメタバースによって世界の法執行官がアバターを介し、国境を越えて知識を共有するためのツールを手にするとともに、犯罪科学情報やその他の警察活動に関する訓練が受けられるようになる」と説明している。
テクノロジーが進化すれば、新たな犯罪が生まれるのは世の常だ。データ窃盗、マネーロンダリング(資金洗浄)、金融詐欺、偽造、ランサムウェア(暗号化などによってファイルを利用不可能な状態にした上でそのファイルを元に戻すことを引き換えに金銭を要求する悪意のあるソフトウェア)、フィッシング(ネット上に存在する経済的価値がある情報を奪うために行われる詐欺行為)などがメタバースで想定される犯罪の典型例だ。ランサムウェアやフィッシング、デジタル資金洗浄などは既に日常化しており、被害が今後さらに拡大するのは確実視されている。
インターポールはこれらの犯罪を問題視していることは間違いないが、わざわざメタバースを立ち上げたのにはもっと深い理由があると思う。
インターポールの担当者は「メタバースは我々の日常生活のあらゆる側面を変革する可能性を秘めている。警察がメタバースを理解するためには、まずこれを経験する必要がある」と示唆的な発言を行っている。
ビジネスにおけるバーチャル会議などは当たり前になったことから「最高経営責任者(CEO)」になりすましたビジネス詐欺や、子供に対する犯罪や性的な暴力やハラスメントなどまったく新しい形態の犯罪が発生する可能性が指摘されている。
インターポールの野心的な取り組みの背景には、現実世界と仮想世界との間を行き交う人々が日々増加している現在の状況が関係している。仮想世界の存在感がこのところ急速に高まっている理由の1つに新型コロナのパンデミックがある。
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