“日本一泊まりたい旅館”・加賀屋でお家騒動? 相談役の父が、社長である息子と交代する異例の人事に

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“日本一泊まりたい宿”と目されてきた北陸の温泉旅館で、湯煙ならぬ「お家騒動」ののろしが上がっている。相談役の父が、社長の肩書を持つ長男と交代してトップに返り咲く異例の人事。その真相は藪の中で……。

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 全国旅行支援とインバウンド需要の揺り戻しで、にわかに観光業界が活気づく矢先の出来事だった。石川県七尾市の和倉温泉にそびえる旅館「加賀屋」。その運営会社の代表取締役社長・小田與之彦(よしひこ)氏(54)が10月末で退任し、実父で相談役の小田禎彦(さだひこ)氏(82)に交代することが明らかになったのだ。

「加賀屋」といえば、旅行新聞新社主催「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で、通算40回総合1位に選ばれ、昭和天皇・皇后両陛下や上皇さまご夫妻もお泊まりになった名門である。1906(明治39)年の創業以来、代々小田家がトップを務めてきたが、今回は5代目にあたる息子が齢80代の父親にトップの座を返上する異常事態。NHKはじめ新聞各紙も一斉に報じたが、一歩踏み込んだのは地元紙の「北國新聞」で、背景に親子間の確執があったのではないかと質す記事を掲載したのだ。10月3日付の同紙は、〈「確執でも何でもない」〉と題して父・禎彦氏の説明をこう紹介する。

〈加賀屋を(プロ野球の)ジャイアンツとした場合、ジャイアンツを退団するわけではない。3番、4番バッターを務めるためにヒットを打つ練習をしてくるという話です〉

「対立が限界に達した」

 退任する息子は、今年5月から社長を兼務していた老舗旅館「つるや」(福井県あわら市)の経営に専念するが、そのことを父は〈ヒットを打つ練習〉だと説明したわけなのである。

 だが、これを地元で額面通りに受け取る人は少ない。

「やっぱり、禎彦さんと與之彦さんの対立が限界に達したんだと思いますよ」

 とは、さる地元関係者だ。

「さすがの加賀屋さんもコロナ禍で宿泊客が減少し、経営方針をめぐって親子の意見の対立が表面化したのだと思います。退任する息子夫婦も頑張っていたけど、去年の年末あたりは特につらそうでね。何か新しいことをするにしても“大殿”と呼ばれる父親が実質的な決定権を持ち、お伺いを立てねばならなかったとか。自由にできる福井の旅館で、心機一転を図るのでは」

 息子の與之彦氏は91年に慶應大学を卒業後、大手商社の丸紅を経て、ホテル経営学で有名な米国コーネル大学に留学し修士号を取得。99年から加賀屋の経営に携わり、8年前に叔父から社長の座を受け継いだ。

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