“ムード歌謡の帝王”「敏いとう」が初めて明かす、愛妻との死別、コロナ感染、前立腺がん…… 「思うに任せぬ」独居生活を楽しく生き抜く極意

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腎臓摘出に前立腺がん、コロナの“トリプルパンチ”

「外での移動は基本、車椅子を使用しています。意外だったのは車椅子に乗っていると、道行く人が声をかけてくれたり、向こうから道を避けてくれたりと、人の優しさが身に沁みること。妻を亡くしてからは愛犬の散歩も近所の人がやってくれ、週2回通っているデイサービス施設では同世代の友達もできた。周囲の人とコミュニケーションを取らないと生活が回っていかないから、塞ぎ込んでいる暇がなかったのは幸運だったと思っています」(敏氏)

 敏氏の朝は早い。いまは午前3時前には起床。前日の夜に娘が用意した朝食を食べ、10種類以上の薬を飲むのが日課だ。

「これでも減薬したほうです。持病の高血圧や糖尿病の薬、整腸剤……。あと80歳の手前で腎臓がんになって腎臓を1個摘出。その後に見つかった前立腺がんは薬で抑えている状態です。他にも14年に心臓の大動脈3本が詰まる心筋梗塞を起こし、太ももなどから5本の動脈を心臓に移植する大手術を受けたので、心臓や血流を良くする薬も服用している」(敏氏)

 さらに今年のお盆明けにはコロナにも感染したという。

「通っているデイサービスでクラスターが発生したんです。ワクチンは3回接種済みだったけど、その日、帰宅すると立っていられないほどフラフラになって……。で、病院に行ったらコロナだった。けどベッドの空きがなく入院はできず、自宅療養で乗り切るしかなかった」(敏氏)

 38度の高熱や下痢の症状に悩まされながらも、まわりの助けもあって「1週間ほどで回復した」と笑う。

「ボケたら迷わず施設に入れろ」

 いまの楽しみは「iPadでYouTubeを見るか、AppleMusicで洋楽を聴くこと」と話す敏氏が、独居生活を楽しく過ごす「心構え」として挙げたのが素直さと辛抱心だ。

「何かをしてもらったら“ありがとう”と言える素直さは大事。実は年を取ってからのほうが、人間関係や人付き合いは大事になる。俺はいま週2回、ヘルパーさんに自宅訪問してもらっているけど、相性の合う人に会うまでは忍耐強くうまくやっていくしかない。いまのヘルパーさんは3人目だけど、ソリが最高に合うんだ」(敏氏)

「終活」も考え始めているが、それほど急いではいないという。

「不思議と生きる気力が衰えることはなく、“あと30年は生きたい”というのが本音。もちろん、いくら願っても先のことは分からないから、娘2人には“俺がボケたら、迷わず施設に入れてくれ”と頼んである。人様に迷惑をかけるようになったら“潮時”とは、以前から自分のなかで決めていたこと。終活の手始めとして、まずは女房の墓を建てようと考えているところです。夫婦位牌はつくったものの、コロナに罹ったりとバタバタ続きだったので、まだ彼女の墓を建ててあげられていない。それがいまの〈やることリスト〉の1番目で、2番目が熊本の実家の“墓じまい”かな」(敏氏)

 老いも不便も「新発見」と捉える転換力が、生活の“潤滑油”になる不思議。オープンマインドでいれば、独居でも「孤独」ではないという。

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