餃子の王将事件 大学中退「田中幸雄容疑者」はヒットマンというよりテロリスト 臭う“反権力の思想”
若手のいないヒットマン
暴力団の動向に詳しいジャーナリストの藤原良氏は、「確かに田中容疑者は従来のヒットマン像とは全く違うタイプの組員と言えるでしょう」と指摘する。
「従来のヒットマンについて説明するには、2000年代の状況を振り返る必要があります。05年から暴力団構成員の数は減少に転じ、08年に暴対法が改正されました。組員による恐喝などの事案でも、組長に“使用者責任”で賠償請求ができるようになるなど、非常に締めつけが厳しくなったのです」
2000年代より前に暴力団に入った組員は、古典的な“ヤクザ像”に憧れた者が少なくなかった。「カッコいい男になりたい」「ケンカが強い人間になりたい」という具合だ。
「2000年代より前の暴力団は、今よりもはるかに抗争が多かった。そのため、組員になるということと、組に何かあればヒットマンになるということは同義でした。それが2000年代から崩れ、カネ儲けが動機のメインになりました。若い組員は覚醒剤やオレオレ詐欺といった“事業”に邁進し、ヒットマンになれと言われても拒否することが増えたのです」(同・藤原氏)
大きく報道されることは少ないが、今でも組同士の抗争は起きている。逮捕されたヒットマンを見ると、50代や60代が目立つという。若手の拒否で、高齢化が進んでいるのだ。
ヤクザの美学
「かつての暴力団は、抗争でも彼らの“美学”を重視しました。例えば、自分の組長が襲われ、報復するとします。相手の組長を狙うわけですが、背後から拳銃を発射すると、たとえ成功したとしても他の組から笑われたものです。堂々と正面から狙撃することで、『自分たちに正義がある』と誇示することも非常に重要だからです」(同・藤原氏)
かつての裏社会では、「襲撃に成功するのは覚悟を持った組員」と言われていた。
「いくら相手が敵対する組の幹部でも、殺人は誰だって嫌です。しかし、例えば借金を抱えている組員がいるとします。彼は襲撃を命じられると、特別にカネを渡されます。それで借金を返済することができると、組に強い恩義を感じるのです。こういう組員は襲撃で成功することが多いと言われてきました」(同・藤原氏)
先に田中容疑者の経歴から、暴力団の幹部としてどれだけ異色かを見た。同じように、ヒットマンとしても異色の存在だという。
「そもそもヒットマンとは、組と組の抗争で必要とされる存在です。狙うのは敵対する組長や幹部というのが基本でしょう。ところが、田中容疑者が狙ったのは、大林組や餃子の王将といった上場企業の関係者でした。彼の犯行からは“ヤクザの美学”のようなものは微塵も感じられません。むしろテロリズムに近い印象を受けます」(同・藤原氏)
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