梨泰院事故で迷走する責任追及 「自殺」にまで追い込む韓国社会の“魔女狩り”
政権批判に利用する野党の思惑
尹大統領は今年5月の就任後、大統領執務室を青瓦台から梨泰院に近い龍山区の国防部旧庁舎へ移した。地元警察がハロウィンの警備に人員を割けなかったのは、大統領の出退勤に多くの人員が駆り出されていたことが原因という主張である。
「ただこの主張にはかなり飛躍があり、野党が政権叩きに事故を利用しようとしている魂胆が丸見えで、あまり浸透していません。副院長はすぐに投稿を削除し、今のところ事故の責任を尹大統領に結びつけるような動きにはなっていません」(同)
もっとも尹大統領も、いつ自分に矛先が向かいかねないか、十分に意識して行動している。セウォル号沈没事故では、当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領が事後対応で大きな非難を浴び、後の失脚につながったからだ。
朴氏の対応で特に問題視されたのは、事故直後から7時間もの間、対応に当たっていなかった「空白時間」があったことだ。尹大統領も二の舞になるまいと考えているのだろう。事故後は連日、現場や遺体安置所などを訪問。陣頭指揮する姿をアピールしている。しかし、「事故や災害を政局に持ち込むのは韓国野党のお家芸であり、油断は禁物」(同)という。
ネット上で“犯人”を吊るし上げ
ネット民にたちによる“独自捜査”も始まっている。当日は多くのYouTuberも梨泰院のハロウィンに参加していた。そのため、ネット空間にはモザイクがかかっていない事故時の映像が出回っているのだ。
その中に「黒いウサギ耳のヘアバンドをした男ら5、6人が、『押せ、押せ』と叫んでいた姿」が映っていたというのだ。「自分もウサギ耳の男が押しているのを見た」との現場での目撃情報も加わり、男性は“犯人”としてネット上で特定されてしまった。
「ただ専門家は『5、6人がふざけて押すようなことをしても、あのような惨事は起こらない』と分析している。そもそも『押せ』という叫びは、混乱する現場から逃げようとして出ていただけの可能性もある」(同)
男性は自身のSNSで「自分は確かにあの場にいたが、事故が起きた時には現場を離れて地下鉄に乗っていた」と反論。証拠として乗車時間が明記された地下鉄の利用記録の画像も添付し、「虚偽情報を流した人物を告訴する」と訴えた。それを受けネット上では「本当の犯人は黒ではなく、白いウサギ耳の男だ」などと次のターゲット探しに向かっているという。
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