梨泰院事故で迷走する責任追及 「自殺」にまで追い込む韓国社会の“魔女狩り”
ソウルの梨泰院(イテウォン)で起きた雑踏事故を受け、韓国国民の怒りは沸騰している。だが、その矛先をどこに向ければ良いのか、国民やマスコミは迷いあぐねているという。大事故が起きた時、責任者を炙り出し、過剰な吊るし上げをすることで知られる韓国世論。「魔女狩り」もすでに始まっている。
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主催者はいなかった
今回の事故で引き合いに出されるのが、2014年に起きた「セウォル号沈没事故」である。今回の雑踏事故の被害者の多くが20代の若者だが、セウォル号事故でも修学旅行中の高校生たちが犠牲になった。苦しみながら無念の死を遂げた点も同じだ。だが、二つの事故には決定的な違いがある。
「セウォル号では、まず事故を起こした船会社の責任が追及されました。過積載だったばかりでなく、事故時に船長が操舵室におらず、経験不足の三等航海士が操縦していた。さらに、船員たちのほとんどが乗客を救助せず、真っ先に逃げ出したという点もひどかった。ただ今回の事故では、真っ先に責任を負うべき企業や人物が存在しない。ハロウィンパーティの主催者は存在せず、自発的に集まった群衆の中で事故は起きました」(韓国在住ジャーナリスト)
そのため、事故発生直後、ネット上では「外国人が作ったお祭りに行った彼らが悪い」といった犠牲者を責める声が多かったという。
DJポリスが韓国で有名に
だが、立ったままの状態で息絶えていった若者たちの最期が明らかになるにつれ、責任追及の声が強まっていく。今もっとも矛先が向けられているのが警察である。
地元警察には事故発生の3時間半前から11件の通報が入っていたが、警察官が現場に出動したのは4件だけだったことが判明した。11月1日、韓国警察トップの尹熙根(ユン・ヒグン)警察庁長官は、事故前後の対応に不備があったことを認め国民に謝罪。翌2日には、警察庁の特別捜査本部が龍山(ヨンサン)警察署へ捜索に入った。
「テレビでは渋谷のハロウィンの映像が繰り返し流れ、“なぜ日本のような対応ができなかったんだ”という非難の声が噴出しています。『DJポリス』という呼び名も、この事故を契機に浸透してしまったくらいです」(同)
警察批判は一気に大統領にまで駆け上がった。10月30日、野党「共に民主党」のシンクタンク「民主研究院」の南英姫(ナム・ヨンヒ)副院長は、Facebookで「梨泰院惨事は青瓦台(=大統領府)移転のために起きた人災だ」、「百歩譲歩しても原因は全て龍山の国防部にある大統領室に集中した警護人材のせい」と、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対する批判を始めた。
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