オリックス日本一! 育成出身「宇田川優希」登場でヤクルトを圧倒した「新時代の継投術」

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育成出身の「シンデレラ・ボーイ」

 見どころ十分、連日の激戦が続いた日本シリーズは、2敗1分けとヤクルトに追い込まれたオリックスが、そこから一気の4連勝で巻き返し、26年ぶりの日本一をつかんだ。

「非常にいい夜空でした」

 神宮の夜空に5度舞った後のオリックス・中嶋聡監督の第一声には、激闘を制した感慨と安堵の思いが、ぎっしりと詰まっているようだった。

 昨年、この同じ舞台で敗れたヤクルトを相手に、見事なまでのリベンジ劇。その立役者に、最強リリーフ陣の一角を担ったオリックスの“シンデレラ・ボーイ”の存在を、決して見逃すわけにはいかないだろう。

 宇田川優希。

 身長1メートル84、体重92キロの恵まれたサイズと、マウンド上での堂々としたたたずまいを見ていると、まだプロ2年目の23歳とは思えない風格さえ感じられる。

 最速159キロの剛球と落差の大きいフォークは、かつての近鉄“バファローズ”のエースで、日米通算201勝の「トルネード」こと、野茂英雄氏ばりだ。この右腕が、日本シリーズの大舞台で、一躍脚光を浴びたのは、第4戦のことだった。

 5回1死三塁、1点リードの場面で、中嶋監督は先発の山岡泰輔から、2年目の23歳・宇田川へのスイッチを告げたのだ。

 試合の流れを考えれば、ここは1点もやりたくない。同点に追いつかれてしまえば、強力打線のヤクルトが勢いづくのは、目に見えている。

「あそこは、三振が取れるピッチャーということで」

 中嶋監督は、宇田川の起用理由をこう説明した。

 ヤクルトの三走は、俊足の塩見泰隆。外野フライならタッチアップ、内野ゴロでも本塁に突っ込んできて、セーフになる確率も高い。ならばこの場面は、とにかく打球を前に飛ばさせないことが大事になる。

 その期待通り、宇田川は2番・山崎晃大朗を142キロのフォークで空振り三振、山田哲人に対しては、初球に156キロのストレートを見せ、カウント1―2と追い込んだ5球目に、高めからストライクゾーンへ落ちてくる145キロのフォークで、見逃し三振に仕留めた。

 さらに、回またぎの6回は、2四球で1死一、三塁のピンチを招きながらも、サンタナと中村悠平を空振り三振に仕留め、ヤクルトに得点を許さなかった。

「3年以内に1軍に上がる選手になります」

 こんなギリギリの厳しい場面で頼りになる右腕が、昨年の育成ドラフト3位指名でのプロ入りとは、にわかに信じられないキャリアでもある。

 本指名以外は指名拒否の方針を打ち出していた仙台大のエースを、オリックスが敢然と指名。ドラフト会議の翌日、スカウト部門を統括する牧田勝吾・編成部副部長は当初、ドラフト1位の山下舜平太(福岡大大濠高)へ指名あいさつをするため、福岡入りする予定だった。

 ところが、急きょ仙台行きに切り替え、大学側へ謝罪と宇田川の説得にあたった。牧田副部長は、宇田川が本指名以外なら指名拒否という“強硬姿勢”を見せていたその背景も、しっかりと把握していたからこその“口説き”を用意していた。

「お父さんは、野球に興味がほとんどなかったんです。大学でも野球を続けさせたくなかったくらいで『普通に就職して、働いてもらいたい』というお考えで、お母さんの方は『息子がやりたいことを応援したい』とおっしゃっていたんですね」

 息子さんは、確実に、3年以内に1軍に上がる選手になります。球団としての高い期待を両親に伝え、さらに宇田川本人にも熱く語りかけた。

「入ってからが勝負じゃないの? プロに入ることが目的じゃないはずだよ。君ならきっと、プロに入って、しっかりと親孝行ができるよ」

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