ルヴァン杯で広島が起こした奇跡 悪夢を振り払う“神懸かり的勝利”の裏側

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 奇跡とは滅多に起きないから奇跡なのだが、サンフレッチェ広島に起きたのはそんな奇跡の連続だった。

 まず10月16日に行われた天皇杯決勝。駒を進めた広島は過去カップ戦決勝で0勝7敗、つまり7度も決勝に進出しながら一度たりとも優勝したことがなかった。絶対王者の下に“シルバーコレクター”が生まれることはあるが、広島はさまざまな相手に負け続けた。

 だが、今回の天皇杯の相手は、格下J2にあって、かつ18位と低迷する甲府。J2クラブの天皇杯決勝進出は8大会ぶりの快挙だが、広島からみれば奇跡的においしい展開である。

 しかし、試合は1-1のまま延長戦に突入。それでもアディショナルタイムでPKを得て誰もが広島の勝利を確信した。が、相手キーパーが好セーブ。PK戦にもつれこみ、4-5で敗れた。ほぼ手中に収めていたカップは甲府の奇跡的勝利で露と消えた。

神懸かり的勝利

 カップ戦決勝8連敗の5日後、広島に訃報が届いた。2017年から2年間在籍した元日本代表・工藤壮人が急逝したのだ。10月2日、J3宮崎に籍を置いていた工藤は、体調不良を訴えると、検査で水頭症と診断されて入院していた。享年32。

 その翌日、広島はふたたびカップ戦決勝の舞台に立つ。ルヴァン杯である。相手は17年に天皇杯とルヴァン杯の2冠を達成しているセレッソ大阪。9連敗の悪夢が影を落とす。

 案の定、試合は0-1の劣勢で90分が経過。そこでまたも奇跡が起きる。今度は広島に。なんとアディショナルタイムに2ゴールを決めて逆転したのだ。

 まさに神懸かりというべき勝利。広島は“9度目の正直”でついにカップ戦初優勝を果たしたのだった。

「工藤の死がチームを鼓舞したのは間違いありません」

 とスポーツ紙記者が語る。

「多少メンバーを入れ替えたとはいえ、天皇杯とルヴァン杯の大きな違いは、工藤が亡くなる前か後か。実際、広島は社長名で追悼文を発表し、ベンチに工藤の名を刻んだユニホームを掲げた。キックオフ前に黙祷も行っています」

週刊新潮 2022年11月3日号掲載

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