【舞いあがれ!】横山裕の登場に小技…桑原亮子さんの脚本の魅力を分析する
NHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」は第5週に入った。主人公の岩倉舞役が子役の浅田芭路(9)から福原遥(24)に交代した後も支持は衰えていない。週単位の平均視聴率は浅田が出演を終えた第3週が世帯16.0%(個人9.1%)。福原に交代した第4週の27日までも世帯はやはり16.0%(個人9.2%)。この朝ドラの魅力を深掘りする(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)。
「舞いあがれ!」への支持は衰えない。歌人としても名高い桑原亮子さん(42)による脚本が相変わらず冴えているのが最大の理由に違いない。
第16話。舞が入学した浪速大学の人力飛行機サークル「なにわバードマン」には酷く感じの悪い女性がいた。2回生部員・由良冬子(吉谷彩子[31])である。パイロットだ。
部員たちが制作中の人力飛行機「スワン号」に、舞が触れようとしたところ、由良は怒声を上げた。
「触ったらアカン!」(由良)
何も怒らなくたって……。後輩に威張りたいだけのイヤな先輩に見えた。
そうではないことが分かったのは第20話。由良は部員たちの期待に応えようと懸命だったのだ。
由良はテスト飛行に失敗し、骨折する。入院先の病院で舞に向かってパイロットの辛さをこう漏らす。
「大変やで。みんなの期待を背負うプレッシャーは……」(由良)
由良がピリピリしていたのは部員の夢と共に飛ぶという精神的重圧からだった。本当は線の細い女性なのだろう。
桑原さんの脚本には偶然が見当たらない。まるで緻密なジグソーパズルのようで、後からすべてが結びつく。それが大きな魅力の1つだ。
言葉による変化
これまでも必然の連続だった。舞の母親・岩倉めぐみ(永作博美[52])が14年も実家の長崎県・五島列島に帰らなかったのは舞の父親・岩倉浩太(高橋克典[57])と駆け落ちしたから。めぐみと舞の祖母・才津祥子(高畑淳子[68])が再会し、和解を果たせたのは舞の療養がきっかけ。舞が空に憧れるようになったのは五島でばらもん凧と出会ったから――。
ドラマに偶然は付きものだが、それに頼りすぎる作品も少なくないのは知られている通り。都合の良い偶然が乱発されるほど観る側はシラケてしまう。
由良がパイロットを目指したのも偶然ではなかった。それが明かされたのは第19話である。
由良は小学生から野球を始め、優秀な選手だったが、中学生になると、体格で勝る男子に圧倒されるようになった。
「悔しかった」(由良)
野球を断念した由良が図書館で目にしたのがアメリア・イアハートの伝記。1928年、女性パイロットとして初めて大西洋を横断した人である。由良はイアハートになることを夢見るようになった。
イアハートの大西洋横断は世界初だったリンドバーグの僅か1年遅れ。ライト兄弟の初飛行から25年しか過ぎていなかった。1937年には果敢にも世界1周に挑む。だが、その飛行途中に行方不明となり、現在に至るまで遺体も機体も見つかっていない。
由良から舞がイアハートの話を聞いたというエピソードもおそらく偶然では終わらない。旅客機のパイロットになることが既に劇中で示唆されている舞もイアハートを意識するようになるのだろう。今も語り継がれる航空界の偉人であるだけでなく、女性の社会進出と権利拡大に大きく貢献した人だからである。
桑原ワールドの登場人物は誰かに聞く1つ1つの言葉にしっかりと影響を受ける。登場人物たちは受け止めた言葉によって内面が変化する。これもドラマの魅力を高めている。
人の心が誰かの言葉によって動くのは現実と同じなので、特別なことではないのだが、ドラマの登場人物は往々にして唐突に変心する。不自然に心変わりすることも。桑原さんの脚本は違う。だから異彩を放つ。
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