次世代通信基盤「IOWN」でゲームチェンジを実現する――澤田 純(NTT代表取締役会長)【佐藤優の頂上対決】

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生活を変えるデジタルツイン

佐藤 それでは2030年以降はどうなるのですか。

澤田 電子の代わりに光で動く光半導体を作ります。これができると、100倍の電力効率、125倍の伝送容量、200分の1の低遅延が実現できます。

佐藤 それはすごいですね。局面が変わる。

澤田 ゲームチェンジが起きます。それを起こす側にいるのです。少し専門的になりますが、半導体のシリコン基板上に発光素子や受光器、光変調器といった素子を集積した回路を「シリコンフォトニクス」と言います。そのファーストランナーが弊社なのです。

佐藤 競争相手はいないのですか。

澤田 光伝送装置の研究を大々的に行っているのは弊社くらいで、メーカーでは日本の富士通、NEC、アメリカのシエナなどは研究をしています。シリコンフォトニクスは、アメリカでベンチャーが生まれつつありますが、インテルやブロードコムも含め、いま弊社が最先端を走っている感じです。

佐藤 ゲームチェンジを実現するには、一時期の日本の携帯電話がたどったガラパゴス化は避けなければなりません。

澤田 そのためにアメリカで2020年1月に「IOWN Global Forum」を発足させました。最初に話をしたのはインテルで、同社とソニー、弊社でコアメンバーを形成し、その後、マイクロソフトやデルなど100社近くが参加しています。そこでこの方式を標準化すべく引っ張っていきたい。

佐藤 これには経済安全保障も関わってきますね。

澤田 米中のデカップリング(非連動)を先読みしてやってきました。価値観の同じ自由主義国が開発母体となる形になっています。もっとも今後、アメリカが中国に接近するようなことがあったら浮いてしまいますので、自身も強化しながら連携する構造にしていきます。

佐藤 IOWNが現実のものとなった時、私たちの生活はどう変わるのでしょうか。

澤田 一番わかりやすいのは、「デジタルツインコンピューティング」が可能になることです。高速で大容量のデータがやりとりできますから、実世界から入手したデータでサイバー空間に双子のような世界を構築し、そこから現状を分析したり、未来を予測したりすることができるようになります。例えば、快適に住みたいなら、誰かがコントロールするのではなく、AIが自動的に空調やライティングの環境を調節して過ごしやすくしてくれる。

佐藤 サイバー空間の家で試してみて、それを実世界に反映させるわけですね。

澤田 住居に限らず、街でも人体でも、デジタルツインは可能です。

佐藤 そのままの生活だったら、どんな病気になるかがわかる。

澤田 ええ、デジタルツインの強みは、シミュレーションと未来予測になると思います。

佐藤 メタバースとは根本的に違いますね。

澤田 メタバースは参加者が自由に活動できる仮想空間で、そこに何の歯止めもありません。このまま法的ルールが整備されることなく、倫理性もないままに進んでいくのは、極めて危険です。

佐藤 メタバースの世界で自身の分身であるアバターを作って、別の人生を歩むことになると、人間とは何かという問題にもなってくる。

澤田 デジタルツインもどんどん進めば、人間の心や意識を形成するものをどこまでデジタル化できるだろうか、という問題が出てきます。それは究極的には人間とは何かという哲学的な問題に行きつく。また、富の格差が命の格差につながるようなことも生じてくるかもしれない。

佐藤 そこはユヴァル・ノア・ハラリが『ホモ・デウス』で描いたディストピアの社会ですね。一部の人間が技術を駆使して不死に近づき、神のような存在になる。彼が2018年と2020年のダボス会議でそれをもとに基調報告したのは一つの警告だと思います。

澤田 ハラリはそうした社会を肯定しているわけではありませんが、その未来像については断定的な書き方をしています。でも私はその未来を認めません。

佐藤 私も反対です。

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