次世代通信基盤「IOWN」でゲームチェンジを実現する――澤田 純(NTT代表取締役会長)【佐藤優の頂上対決】
新しい情報基盤を作る
佐藤 それが「IOWN(アイオン)(Innovative Optical and Wireless Network)」ですね。
澤田 そうです。最先端の光関連技術と情報処理技術を活用した新しい情報通信基盤を作ります。このIOWNは、ICT(情報通信技術)が抱えるさまざまな問題を解決できる技術なんですよ。
佐藤 まずそのさまざまな問題とは何でしょうか。
澤田 これからはデータ駆動社会になっていくとよくいわれます。いろいろなものをデータにして、それによって予測したり、最適な選択肢をリコメンド(推奨)したりする社会ですが、そのためには、膨大なデータ処理が必要になります。ですが処理量が多いと、半導体がもたなくなるんですね。具体的には熱を持ってしまう。これまで「ムーアの法則」と言って、半導体の集積密度は1年半から2年で2倍になるとされてきましたが、それが限界まで来ています。
佐藤 データセンターは、発生する熱との戦いだといいますね。
澤田 半導体チップにしても、シングル(1桁)ナノの単位で描線を引いて回路を作っていますから、物理的な限界が近い。ではどうするのか。電子の代わりに光を使おうというのが、IOWNの基本構想です。そうすると、大容量で遅延もなく、熱もあまり出ない。つまりエネルギー効率のいいシステムができます。
佐藤 半導体チップを光で動かすわけですね。これはNTT独自の技術なのですか。
澤田 はい。もともと通信では光ファイバーを使っています。その中継機で光信号を電気信号に変換する仕組みはあった。それをもっと小さくすれば、半導体の中にも入れられるのではないかということで、もう30年近く研究してきたんです。そしてその成果が2019年4月、イギリスの科学雑誌「Nature Photonics」に論文として掲載されました。そこで同年の5月にこの構想を打ち出すことにしたのです。
佐藤 実用化までどのくらい時間がかかりますか。
澤田 大きく分けると2ステップになっています。いきなりすべてを光にするのは無理なので、まず2030年までに電子素材と光素材を複合化した半導体を作ります。これを光電融合と言っています。半導体のLSI(大規模集積回路)とLSIの間をつなぐところを電子から光に変える。それが最初のステップになります。
佐藤 その段階でも大きく変わってくるのですか。
澤田 一つは、インターネットの映像がより高精密で遅延がなく、リアルタイムで動くようになります。ただ感覚的には、いままでよりキレイになった、速いねというくらいの印象かもしれません。もう一つは、端末の消費電力が減りますから、充電を頻繁にしなくてすむようになる。
佐藤 そこはカーボンニュートラルの問題に関わってきますね。
澤田 データ駆動社会となってデータ処理量が飛躍的に増えると、いままでの電力では追いつかなくなります。ですから、そこは大きな利点です。2025年の大阪・関西万博で使用するシステムとして準備していますが、それまでに電力使用量を8分の1にすることを目指しています。
佐藤 3年後ですから、すぐです。
澤田 そこはだいたいめどがついています。ただ、その半導体の方式を、メモリで使うのか、スイッチで使うのか、あるいは最終的な製品をルーターにするのか、サーバーか、端末か、そのあたりはまだ整理できていません。今後、各社と協業していきますから、どんどん面白い展開になっていくと思います。
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