次世代通信基盤「IOWN」でゲームチェンジを実現する――澤田 純(NTT代表取締役会長)【佐藤優の頂上対決】
通信インフラを一変させる新しい技術が日本で生まれつつある。電子で行われているデータ伝送を光信号で行うもので、将来は光で動く半導体を開発する。これにより大容量、低遅延、低電力のやりとりが可能となり、生活にも大きな変化をもたらすという。果たして“技術大国”日本は復活するか。
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佐藤 今年6月に会長に就任された澤田さんは、社長在任時の4年間に大々的なグループ再編を行われました。中でも4兆円強を投じたNTTドコモの完全子会社化は大きな話題になりました。
澤田 ドコモは携帯電話のシェアでは42%ほどでトップなのですが、収益は3番手、強化が必要だったんです。
佐藤 ドコモは分離してから大きく成長したわけですから、一緒になることに抵抗もあったでしょうね。
澤田 そうですね。ただドコモの方も非常に歪(いびつ)な形の会社になっていることはわかっていた。NTTとはファイヤーウォール(障壁)を作って、無線通信だけやる会社になっていましたから。一方、競争相手はソフト開発などさまざまな事業を展開して、どんどん大きくなっている。ドコモが関連企業を買収する方法もあったでしょうが、一番早いのはNTTグループの中で能力を組み合わせることだと考えました。
佐藤 澤田さんは1985年の日本電電公社の民営化の時も、1999年のNTT分割の時も、会社にいらっしゃいましたね。
澤田 どちらも、会社を移ったくらい環境が変わりましたね。さらにアメリカの子会社にもいましたから、私は都合四つの会社で仕事をしてきた気分です。
佐藤 時代によって、組織の形をこれほど大きく変えた企業も珍しいのではないですか。
澤田 もともと電電公社は、戦後復興のため、1952(昭和27)年に設立されました。通信網、特に電話網をどう整備していくか、それを考え、計画的に実行していくための会社でした。
佐藤 いまでは想像できませんが、昔は電話が引かれていることが富裕層の証みたいな感じでしたね。
澤田 ええ、ステータスでした。
佐藤 私が幼い頃は団地住まいで、最初の電話は隣家と共用する親子電話でした。隣が使っていると、使えなくなる。
澤田 電話線がない、端子がない、という時代でした。ですから日本中で電話をすぐにお使いになれるようにすることが目標でした。多い年には、年間400万から500万回線を敷設しましたね。
佐藤 電話が各戸に行き渡ったのはいつ頃ですか。
澤田 1979年で、私が入社した翌年のことです。いちいち交換手を通さずに電話できるようになったのもその頃ですね。
佐藤 資料を拝見すると、澤田さんは技術畑出身ですね。
澤田 大学は工学部で土木を専攻しました。それで社会資本、いまで言うインフラ作りに携わろうと思って入社したんです。最初は局外施設と呼ばれる部門に配属され、ケーブルを敷設したり電柱を立てたり、またお客様の家に行って故障の修理もしましたね。
佐藤 通信の動脈部分を作られた。
澤田 ええ、中身ではなく、“入れ物”の方です。1980年代には日米貿易摩擦が起きて、アメリカからもっと部品を輸入するよう要求され、社内で初めて国際仕様書を作ったこともあります。でも、だいたい通信の周辺というか、メインではない部署を歩いてきた感じです。
佐藤 民営化は入社されて10年も経たない時期です。
澤田 回線を敷設し終わったら、競争を入れてもっと値段を下げた方がいいという議論が沸き起こった。それで民営化されるのですが、一方、社内では当初の目標を達成してしまうと、やることが見つからないんですね。メディアの人から「これからは何をするの」と揶揄されたこともありました。その頃に始めたのがデータ通信です。それは後に分離されてNTTデータになります。
佐藤 同じ頃に携帯電話の前身であるショルダーフォンが出てきますね。私は1986年の東京サミットの際に初めて使いました。
澤田 ああ、外務省にいらしたからですね。それはずいぶん早いです。当時はまだ実験に近い段階で、始めは自動車に搭載して使うので「自動車電話」と呼んでいた。それを取り外して運べるようにしたのがショルダーフォンでした。
佐藤 私は中学時代にアマチュア無線をやっていましたが、大きさも重さもその機器と同じくらいで、これがどこまで普及するのかと思いました。そうしたら、あれよあれよという間に機器が小さくなり、普及していった。
澤田 NTTドコモの前身であるNTT移動通信企画ができるのが1991年です。
佐藤 携帯電話は1990年代に急成長を遂げますが、のちにガラケーと呼ばれるものも、iモードというサービスも、同時代においては極めて優れたものでした。
澤田 その通りだと思います。
佐藤 しかしデファクトスタンダード(事実上の標準)にはならなかった。2007年、iPhoneの登場ですっかり局面が変わってしまいましたね。
澤田 まったく正しいご指摘です。そこでもう一度、私どもが競争のスタートラインに立つためにドコモの子会社化が必要でした。先ほど国内の話を申しましたが、相手は国内だけでなく、世界にもいる。これからの戦略を考えるにあたり、ドコモはドコモのやり方で最適化し、NTTはNTTで別に考えるというのでは、太刀打ちできない。ドコモの子会社化はこれから始めようとすることの必要条件だともいえます。
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