不倫、再婚、離婚の末に最初の妻と再々婚した44歳男性の苦悩 突然知った空白の4年間の秘密

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戻ってきた幸せな生活。だが…

 彼が戻ったその晩、娘たちはニコニコしていた。彼は大きなケーキを買い、すみれさんは手早く料理を作った。彼女の味は変わっていなかった。

「娘たちの4歳の誕生日のときと同じように、家族4人で笑い合うことができた。娘たちが寝てから僕はずっと泣いていました。すみれが『いいかげんにしろっ、ばかっ』と僕の腕を叩いたので、なお泣けてきて」

 最初は多少、ぎくしゃくしていた夫婦関係だが、娘たちのおかげでふたりが顔を見合わせて微笑むことも増えていった。

「今年の夏、娘たちが泊まりがけのキャンプに行ったんです。その日はすみれと久々のデート。すみれが見たがっていた映画を観て、昔行ったことのあるレストランで食事をして。ぶらぶらと繁華街を歩いていたら、向こうからやってきた男性が『あれ、ユメさんだよね』と声をかけてきたんです。すみれはビクッとしながら『人違いです』と毅然と言った。するとその男性が、『ユメさんだよー、熟女~~にいたよね』と。すみれの顔色が変わったので僕は彼女を抱きかかえるようにしてその場を去りました。背中から『もう店には出ないの?』という声が聞こえた」

 雄浩さんは、「どこかでこんな日が来るかもしれないと思っていた」と言う。すみれさんは子どもたちの世話もあるし、雄浩さんの母のめんどうもみていた。正社員としては働けない。彼は知らなかったが、母の年金はごくわずか。すみれさんは「子どもたちが学校に行っている間はファミレス、母が退院しているときは夜、スナックで働いていた」と雄浩さんには説明したらしいが、それで生活が成り立っていたとは思えなかった。

「あの男性が言った言葉を検索したら、風俗店でした。すみれは生活に合わせた時間帯で風俗で働いていたんでしょう。母の入院費はかなりかさんだはず。母はそれほど高い保険に入っていなかったと思う。なのに最後は個室でしたからね」

 その晩、彼は全身全霊をこめてすみれさんを抱いた。必死だった。ここで自分が男として機能しなかったら、また妻の気持ちを傷つけてしまう。そう思ったという。

 道ばたで出会った男性との会話についてはすみれさんに問いただしていない。彼女の様子でもうわかっている。苦労をかけた自分を呪うだけだ。

「本音を言えば気になりますが、もうすみれと離れたくない。優先順位はすみれと子どもたちと仲良く暮らすこと。そのためには僕がすみれの心に土足で踏み込んではいけない。今のすみれを信じていくしかない。僕自身が生まれ変わったつもりでがんばらなければいけないんです」

 自分に言い聞かせるように雄浩さんは力を込めた。

 風俗で働かせたのは自分のせいだと彼は思っている。もちろん、そうなのだが、どんなことをしても子どもたちと元夫の母親に不自由をさせまいとしたすみれさんの心意気に目を向けてあげてほしい。彼女の前向きさをプラスにとらえてほしい。最後にそれとなくそう言うと、彼はしきりに目をしばたたかせて深く頷いた。

 ***

 冒頭で紹介したアンケート調査では、離婚して後悔した理由についても尋ねていて、男女ともに「子供」の存在を挙げている。

 久々に顔を合わせても変わらず懐いてくれる娘たちに心が揺れているあたり、雄浩さんもどうやら似た思いを抱いていたようだ。再々婚したすみれさんとの関係も、まさに「子はかすがい」で良好な関係を築けているようだ。

 娘たちと再びうまくやっていけているのは、雄浩さんの母とすみれさんがつき通していた「おとうさんは海外でお仕事をしている」という嘘のおかげだ。すみれさんからしてみれば、不倫され、(本人は拒んでいなかったにしろ)義母のめんどうをみるはめになり、風俗で働くことになった元凶である雄浩さんを悪く言っていてもおかしくない。困窮しても雄浩さんの新婚生活を邪魔しまいと連絡を控えていた。すみれさんはよくできた人である。

 そんなすみれさんのことを思えば、空白期間中の彼女の秘密についても問題にならないはず。気になるのは、亀山氏に話を聞いてほしいと願うほどに、雄浩さんが葛藤をしているという点だ。彼に葛藤する権利はあるのか。亀山氏の最後の言葉が響いてくれているといいのだが……。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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