暴言で引退の泉房穂・明石市長 殺害予告が100件超でもめげず…駆り立てた“原体験”
「市民のみなさん、全国のみなさんには申し訳なかったと思っています。政治家を続けたい、続けられないとかではなく、暴言が事実である以上、政治家を辞めるしかないという結論です。ツイッターを止めたのも、一定の説明責任を果たしたのであれば、ここは一端止めるべきだという判断です。現時点ではいつ再開するかは未定ですわ」
10月12日、兵庫県明石市の泉房穂市長が、自らへの問責決議案に賛成する会派の市議に「選挙で落としてやる」などと発言して批判された問題を受け、今期限り(2023年4月まで)での政界引退を表明した。
電撃の退任表明から約1週間後、私は泉氏に直接話を聴きに明石市役所を訪れていた。「産科医療補償制度を考える親の会」(NPO法人サードプレイス)を運営する私に対し、かねて市長が賛同してくれているというご縁のおかげだ。
泉氏との付き合いは約半年ほど。取材で初めて話を聴いた際に理解できたのは、市長を支持し、信頼を寄せる市民が多数いるそのわけである。
よく言えば、親身になって話を聴いてくれる親戚のおじさんといった印象。悪く言えば、関西弁でまくしたて、ストレートにズケズケ包み隠さずモノを言う、あくまで親しみを込めて表現すると、関西のガラの悪いオッチャン風だ。ご当人は不本意かもしれないが。
議会との亀裂のきっかけは
まずは改めて、騒動について振り返ってもらった。
「そこは端的に言うと、積もり積もった怒りが爆発したというところでしょうか。一定数の議員と大半の職員とはうまくやれるようになってましたが、議会の多数派とはこの12年近くの間ずっと厳しい関係だったことが背景にありますね」
元々は弁護士。衆院議員を経て2011年に市長選に当選。以来3期12年近く市長の座にあった泉氏。議会との致命的亀裂が生じたきっかけは、昨年8月の出来事だったと話す。
「緊急のコロナ対策の一環として市民全員に5,000円相当の商品券を配る際に、事業内容も固まり、議会との事前の調整も終わったあとで議会の多数派がなぜか突然反対に回ったんです。市民や商店を救うための施策が嫌がらせで通してもらえなかった。感情的対立がついに、施策にまで飛び火した形で、大きな憤りを感じました。市民や商店を犠牲にしてはいけないと思い、議会と対立してもここは助けるべきだと判断して専決処分をくだしました」
反対の意見は「単なるばらまきでは」というものだった。そこで泉氏が下した専決処分とは、本来なら議会の議決に依るべきところ、自治体の長が処分決定して施策を進めることを言う。議会で成立しないケースや緊急を要するなどの場合に、議会に代って市長が意思決定することが可能になる。
以来、泉氏は市長として限界を感じる機会が多くなったという。
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