「チェキ撮影の現場はさながら戦場」 慶應卒のバイト芸人・ピストジャムが明かす、撮影スタッフ「チェキスタ」の裏側
初めて見たアイドルライブの衝撃と感動
ライブは、想像を超えるすごさだった。汗だくになって全力で歌って踊るアイドルの子たちは輝いて見えたし、そのきらめきを逃さずつかみ取ろうとする客たちの熱気に圧倒された。コールやミックスと呼ばれる独特な合いの手やかけ声を、のどがちぎれんばかりの勢いで、首筋やこめかみに血管を浮かばせながら絶叫する客の姿はすさまじい迫力だった。しかも、それが特定の客だけじゃなく、フロアにいる半数以上の客たちがそういったコールやミックスをして叫んでいるので、どちらがステージでどちらが客席なのかわからないような、見たことのない盛りあがりかただった。客たちの体からは汗が蒸発して湯気が湧き立ち、まるで「ドラゴンボール」の悟空や「北斗の拳」のケンシロウが放つ闘気のように見えた。
自分たちの仕事であるMCも、思っていた以上に過酷な現場だった。ゲームコーナーは楽しくできたのだが、そのあとの投票結果の発表がつらかった。
人気投票の結果が下位になった数名は次回の選抜ライブに出演できないという厳しい条件だったため、ステージ上では喜びを爆発させてはしゃぐ子もいれば、悔しくて泣き崩れる子、自分の順位に納得がいかないのか口を真一文字に結んで不満げな表情をあらわにする子などが混在するという、お笑いライブではありえない光景だった。しかし、そのぶんアイドルの子たちがこのライブにかける意気込みや、今日のために頑張ってきたというひたむきさがこちらにも伝わってきて、胸を打つものがあった。
帰宅してからも、初めて見たアイドルライブの衝撃と感動は薄まることなく残っていた。余韻に浸りながらも、自分も芸人としてもっと頑張らなければと決意を新たにした。
「〈チェキスタ〉やりませんか?」
青柳の相方の代理として1回だけのつもりで出演したMCだったが、翌月もやらせてもらうことになった。ギチは呼ばれなかったのか、たまたま都合がつかなかったのか、MCはなぜか僕ひとりになっていた。青柳の仕事を横取りしたのなら申し訳ないと、先方に断りを入れようかと考えていたのだが、そのことをギチに話すと、「僕らのことは気にしないでやってください」と言われた。その言葉に甘えて、僕はそれからも仕事を受けさせてもらうことにした。
アイドルライブのMCの仕事をいただくようになって1年がすぎたころ、FreeKの制作スタッフのかたから、「バイトで〈チェキスタ〉やりませんか?」と声をかけられた。チェキスタとは〈チェキスタッフ〉の略で、ライブ後にアイドルは客とチェキというインスタント写真を撮るのだが、それを撮影するスタッフのことだった。誘われたのは、FreeKに所属するメンズグループのチェキスタだった。
FreeKは、創業当初は女性グループだけだったのだが、やがてメンズグループにも手を広げ、全体のグループ数が増えてしまったため、スタッフが足りていなかった。僕はなんだか面白そうだなと思って、その仕事を引き受けることにした。チェキスタは、実際やってみると思っていた以上にやりがいもあり、楽しかった。
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