「70歳を過ぎたら大学病院に行ってはいけない」その驚きの理由は? お年寄りにとって本当に必要な医師とは?
医師が介入しない方が長生きする場合も
医師がやたらに「介入」しないほうがむしろ長生きできる、という例はほかにもあります。
北海道夕張市は2006年に財政破綻し、市立総合病院も閉院しました。07年当時、夕張市の65歳以上の高齢化率は42%で、さらなる高齢化が進んでいました。それなのに171床の病院がなくなり、わずか19床の診療所だけになったので、医療の逼迫(ひっぱく)や死亡率の増加が危惧されました。
ところが、ふたを開ければ重症者数は増えず、死亡率も増加せず、三大死因とされたがん、心臓病、肺炎で亡くなる人も減りました。死亡率自体は下がりはしませんでしたが、死因として老衰が増えたのです。総合病院ならではの専門医が市内から消え、過剰な診療や投薬がなくなった結果、よりよい最期を迎えられる方が増えたのではないか。私はそう考えています。
一方、同じ医師でも総合診療医が多い地域は、寿命が長くなる傾向にあるようです。長野県は男女ともに全国トップクラスの長寿ですが、総合診療医の数もまた、全国一だといわれています。長野県では佐久総合病院や諏訪中央病院などの地域の総合病院が、開業医や小規模な診療所と手を組んで、地域医療を積極的に展開していて、大学病院や総合病院の権威にあぐらをかいていません。そのうえ長野県には、患者が来れば来るほど儲かる大学病院とは反対に、患者が多いほど損をする国保直営の病院が多く、その結果、予防医療が発達した、という要因も指摘できます。
しっかり話を聞いてくれる医師を
では、良い医師、良い病院を探すにはどうすればいいのでしょうか。
端的に言って、心理ケアをしっかり行う医師は、信用していいと思います。病気を治して苦痛を取り去ることは重要ですが、前述したとおり、臓器やデータばかりを見て、臓器が治癒すれば良し、正常値に収まれば良し、としてしまう医師が多く、それが弊害につながります。苦痛の除去にとどまらず、患者さんの不安が消えたか、治療によって患者さんのQOLは向上したか、といった総合的な視点をもった本当の「総合診療医」は貴重な存在です。
まずは、しっかり話を聞いてくれる医師であることが大切です。しかし、そういう医師が少ないのも事実なので、複数の病院を回って自分に合う医師を探すことが大事です。私が感じる良い病院とは、「待合室の患者が元気な病院」。患者さんの体調を気遣って薬の量をコントロールし、心理ケアをしっかりする医師が多い病院は患者さんが元気です。一方、血圧や血糖値を下げる薬をたくさん処方する、いわば「正常値信仰」の医師が多い病院は、反対に待合室の患者さんがヘロヘロになっています。
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