「70歳を過ぎたら大学病院に行ってはいけない」その驚きの理由は? お年寄りにとって本当に必要な医師とは?
正常値絶対主義
専門分化された臓器別診療は、このように患者のリスクを高める治療や投薬につながりやすいのです。その背景には、現代の医療に蔓延(はびこ)っていて、9割の医師が陥っている「正常値絶対主義」が指摘できます。
多くの医師は、健康診断などで示される数値が「正常値」を外れていると、それを正常とされる値に戻すために多剤服用を勧めたり、食事制限を課したりします。しかし、臓器別診療の弊害と同じで、健康診断の数値だけを見て、それを正常値内に収めようとすると、場合によっては多剤服用による体調の悪化など、QOL(生活の質)に悪影響が生じかねません。
では、正常値とはなにを指すのでしょうか。これは全世代を通した診断結果の平均値にすぎません。年齢を重ね、体のあちこちにトラブルを抱えた高齢者にとってみれば、平均値から外れるのは、ある意味、当たり前のことです。それに、そもそも平均値に収まっていると健康が保証される、なんてことがあるはずもありません。
メタボ健診で肥満の尺度とされるBMIもそうです。体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割ったBMIは、WHO(世界保健機関)の基準で「18.5~25未満」に収まるように指導されています。ところが06年に発表されたアメリカの追跡調査によると、BMIが25~29.9の「太り気味」の人が最も長生きで、18.5未満の「やせ型」の人の死亡率は、「太り気味」の人の2.5倍だったのです。
太り気味の方が長生きする?
実は、日本でも厚労省の補助金を受けたある研究の結果、40歳の時点で平均余命が最も長かったのは、BMIが25~30未満の「太り気味」の人で、男性が41.6年、女性が48.1年でした。ちなみに、BMIが18.5未満の「やせ型」の人の余命は、男性34.5年、女性41.8年で、「太り気味」のほうが7年も長生きすることが示されたのです。
このことからも、高齢者の場合は、数値に過度に惑わされず、いかに暮らしやすくするか、ということを優先すべきなのがわかると思います。アメリカの国立衛生研究所の下部組織が行った次の研究は、患者さんに正常値を強いることの弊害を、端的に示しています。
糖尿病患者約1万人を対象に、血糖の状態を示すヘモグロビンA1c(赤血球中のヘモグロビンと糖の結合度合いを示し、数値が高いほど糖尿病のリスクが高まるとされる)を、正常値とされた6%未満に抑える「強化療法群」と、基準を7.0~7.9%と緩めに設定した「標準療法群」に分けて調査したのです。3年半に及ぶ観察の結果は、「強化療法群」が「標準療法群」より死亡率が高いという、驚くべきものでした。
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