「誤審で一睡もできず」「ネットに“仰木監督を殺した”と書かれ…」 現役プロ野球審判らが語る舞台裏、現役選手で気に入られているのは?

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大金をはたいても陣取れないポジション

 聞けば聞くほど奥深い、審判の世界。

「審判は一般社会より“定年”は早いですし、退職金もない。決して割に合う仕事だとは思いません」

 と、山崎元審判は言う。

「ただ、イチローやダルビッシュのすごさを目の当たりにし、昭和や平成の名勝負といわれる場面に立ち会うなど、球史の生き証人になれたという喜びは大きい。キャッチャーの真後ろという定位置は、大金をはたいても、それこそ天皇陛下や総理大臣でも陣取れないポジション。そこに毎試合、いていいんですから、審判の仕事には何物にも代えられない魅力があると思います」

 篠宮元審判も、

「球場にいる5万人近くの観衆の中には、熱心に試合を観戦している人もいれば、弁当やビールに夢中だったり、雑談に一生懸命だったりもいる。ところが、ランナーが全力疾走して1点入るかどうかというシーンに遭遇すると、私たち審判と異体同心になったように、0コンマ数秒息を止める。観客の声がピタッと止まり、球場が静まりかえるんです。で、私たちの“アウト”“セーフ”のコールを聞いて、間髪容れず、大歓声が湧き起こる。この刹那にプロアンパイヤーの醍醐味があります。5万人と一緒に息を呑む瞬間。あの一瞬にこそプロ審判員としてのやりがいを感じるのです」

 4年前からはリクエスト制が導入されるなど、ますます技術の価値が高まる審判の世界。

 しかし、人間がすることには必ず間違いがあり、そこに心理の綾も生まれる。その人間臭い世界こそドラマそのものだ。AIのような機械に人生をかけたプレーの判定を委ねたくないというのもまた人情であろう。

 審判がグラウンドで展開する、知られざる闘い。そこに注目することは、きっとプロ野球の魅力を倍増させることになるであろう。

吉見健明(よしみたけあき)
スポーツジャーナリスト。1946年、東京生まれ。法政一高、法政大で野球部に所属し、同期・田淵幸一の控え捕手を務めた。同じく同期の山本浩二、明治大・星野仙一らとも親交を深める。卒業後は銀行勤務などを経てスポーツニッポンの記者となり、野村克也氏の南海監督解任などをスクープする。報道部副部長を務めた後、1991年に独立し、以後はフリーのスポーツジャーナリストとして活動している。

週刊新潮 2022年10月27日号掲載

特別読物「『佐々木朗希へ注意』騒動には伏線があった! 本音全開『プロ野球審判』が見た『名選手』『個性派監督』の裏側」より

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