「誤審で一睡もできず」「ネットに“仰木監督を殺した”と書かれ…」 現役プロ野球審判らが語る舞台裏、現役選手で気に入られているのは?
審判が選手のファンになってしまうことも
こうした審判に対し、監督や選手がどう付き合っていくのかも、戦略の一部である。ただただひたすらぶつかっていく猛者もあれば、上手に付き合い、判定を有利に運ぼうと試みる策士も……。
冒頭とは別の現役審判が言う。
「審判との関係を築く意味でいえば、もっとも上手だな、と思ったのは、ロッテの捕手だった里崎智也です。投手がストライク、ボールへの不満を抱き始めたり、マウンドで少し不満げな態度を取ったりしたら、我々に“ピッチャーに注意しておきますよ! ボールですよね完全に~”と。審判のジャッジを支持する振りをして、感情のしこりが残らないようにしていました」
そうかと思えば、審判が完全に選手のファンとなってしまうケースも。私はセ・リーグの審判部長を務めた故・田中俊幸氏から、飲み屋でこんな話を打ち明けられたことがある。
「吉見さん、私は長嶋茂雄ファンでした。当時は長嶋さんが打って巨人が勝てばお客様は喜びました。そして試合は盛り上がりました。だから私は、長嶋さんの2ストライク3ボール後のギリギリのストライクは全てボールにしていました」
ストライクがミットに収まっても、バッターボックスに立つ長嶋が見逃すと「スト~ボール」と言ってしまったことも二度や三度ではないとか。
「私だけでなく、長嶋さんのサイン色紙を飲み屋に持っていって飲んでいた審判もいた時代です」
と田中氏は照れ臭そうにおちょこを口にした。
現役の愛されキャラは?
さすがに今の球界ではそこまでのスターはいないが、前出の2名とはさらに別の現役審判によれば、
「現役選手でいえば、審判の間での『愛されキャラ』は、巨人の岡本和真です。礼儀正しいし、打席で一切無駄口を叩かない。判定に文句を言ったことも、不服な表情を浮かべたこともない。何よりあいさつができます。そういうバッターは成長が速い」
一方で、審判との関係を築き損ねたがゆえに、大失敗したのが前出の星野監督だ。
生前の星野から直接、こんな話を聞いたことがある。
2008年の北京五輪で監督を務めた時のこと。彼は前任の阪神監督時代に、メジャー帰りの伊良部秀輝から向こうの審判の露骨な差別ジャッジの現状を聞いていた。そのため、五輪では少しでも疑問があると真っ向からかみついたが、それが逆効果。判定はますます不利になり、結局、メダルも獲れなかった――。そう語る星野の目には涙が浮かんでいたものだ。
[7/8ページ]