「誤審で一睡もできず」「ネットに“仰木監督を殺した”と書かれ…」 現役プロ野球審判らが語る舞台裏、現役選手で気に入られているのは?

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バントのジェスチャーをしながら…

 続いて、

「逆に、巨人の歴代監督で、審判に激昂するような人はほとんどいなかったと思います」

 と言うのは、1997年まで16年間、セ・リーグの審判員を務めた篠宮愼一氏だ。

 例えば、巨人時代の王貞治監督は理詰めのタイプ。暴言は吐かず、「なぜアウトなのか」「なぜボールなのか」と冷静に論理的な説明を求めてきたという。

 一方の“ミスタージャイアンツ”長嶋茂雄監督はまたタイプが違って、

「微妙な判定をして“あっこれは抗議に来るな”と覚悟を決めていても、リアクションがないことがほとんど。判定よりも、“あの球はファールしなくちゃ”“なぜど真ん中に投げないのか”と、自分の動物的な勘で、プレーそのものが気になっていたのかもしれません」

 そのため、審判の間でも話題に上るのは、判定以外のことだったという。

「“バントのジェスチャーをしながら『代打、川相』はないよね”とか。私もその場面に遭遇したことがあります。横浜スタジアムで球審を務めた時のこと。巨人の攻撃中で、ランナー一塁の時、ピッチャーに打順が回ってきた。長嶋監督がベンチから出てきて“アンパイヤー、アンパイヤー、篠宮君、代打、川相”と言いながら、ベルトに手を当てたんです。捕手の谷繁(元信)が“バントやね”と呟き、案の定、川相はキャッチャー前にボールを転がした。谷繁が捕って二塁に送球してアウトかと思いましたが、彼は目もくれず一塁に投げ、バント成功、采配的中となったんです」

 その後、谷繁とこんな会話を交わしたという。

「“篠さん、やっぱり二塁に投げられないっすよね”“そうやな”と。長嶋さんの人間性に魅せられ、勝負に徹することができなかったのでしょう」

“口だけ動かしてベンチに帰る。付き合ってくれ”

 対照的に熱血漢として名をはせていたのが、故・星野仙一監督だ。

「星野ドラゴンズではよく乱闘騒ぎがありましたね。殴り合いになったことも数知れず。ただ、星野監督も、判定に対する選手の不満を解消させるため、あえて激しく抗議していた部分もあったと思います」

 ナゴヤドームの試合でのこと。

「ある判定の後、抗議に出てきた星野さんが“おい、篠”と言う。“何ですか”と聞くと“1分だけ我慢してくれ。口だけ動かしてベンチに帰る。勘弁してくれ。付き合ってくれ”と言うんです。苦笑して“わかりました”と言うと、“とりあえずお前も口を動かせ”と」

 1分が経った。

「“監督、そろそろですが”と言うと、“あっ悪い悪い。じゃ、帰るわ、よろしくな”って。何がよろしくなのかさっぱりわかりませんでした」

 と笑いながら振り返る。

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