「誤審で一睡もできず」「ネットに“仰木監督を殺した”と書かれ…」 現役プロ野球審判らが語る舞台裏、現役選手で気に入られているのは?
要注意リスト
また、
「あまり語られていませんが、あの件には“伏線”もあったんです」
と現役審判が続ける。
「佐々木に限らずあらゆる投手について、我々はマウンドでの態度を観察しています。ホームに背を向けていて主審には見えなくても、一、二、三塁の塁審は見ています。判定に不満げな顔や、主審をバカにするような仕草や呟きをしていたら、それは審判団の中で話題に上りますし、ビデオでも確認します。審判団は、投手の人間性を往々にしてストライク、ボールの判定へのリアクションで判断する」
こうして要注意リストができるわけだ。
「打者なら、暴言をはいたり、“よく見ろ!”と言っただけで、あるいはバットでホームベースのストライクゾーンの角を叩いただけで、退場となるケースもあります。いわば、侮辱的動作で、佐々木にも、あの場面より前からそうした傾向が見られていたんです」
「99点を取っても落第と言われる職業」
チーム対チーム、選手対選手――。プロ野球で注目されるのはこの対決だが、一方で、グラウンドでは選手対審判、監督対審判の闘いも展開されている。ゲームの勝敗を超え、この“番外戦”を楽しむことも野球の醍醐味のひとつだ。長年、野球記者を続けてきた身として私はそう思う。
「審判は99点を取っても落第と言われる職業です」
と回想するのは、元NPB審判の山崎夏生氏だ。山崎氏は2010年まで29年間、パ・リーグの審判として活躍し、1500近い試合をさばいたベテランだ。
「審判員は1試合で400~500くらいジャッジをしますが、そのうちミスは4~5個ほど。それでも選手や監督には満足してもらえないんです。常に100点が求められる。両翼100メートル、奥行き120メートルもあるような広いフィールドで1~2センチの誤差も許されないのが審判という職業なのです。以前はビデオ映像技術が今ほど発達していませんでしたから、誤審もそれほど目立ちませんでしたが、今はテレビモニターですぐにわかってしまう。それに伴ってファンも大らかさを失い、判定が正しいか正しくないかだけにしか興味がないように見えますから、なおさら厳しい時代になっていますね」
そう語る山崎氏は、歴代最多クラスとされる、17回も退場を告げた審判として知られている。
「今だから言えますが、そのうち15回は誤審だったと思います。気付いた時は申し訳ない気持ちでいっぱいですが、一度下した判定は覆すことなく貫き通さなければならない。その結果、相手は激昂し、暴言を吐いたり、暴力をふるってきたりすることもある。するとこちらは仕事に徹して退場させなくてはならない。こうした場面が辛かったですね」
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